ロードスターの改良とスポーツカー談義:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
マツダはロードスターとロードスターRFを商品改良して発売した。何がどう変わったのか。また、そこに秘められたマツダの思いとは。詳しく解説していこう。
完全に別物になったエンジン
さて、個別に見よう。今回最も大きく変わったのはハードトップモデルであるロードスターRFのパワートレーン、SKYACTIV-G 2.0だ。ものすごく乱暴に言うと、RFのデビュー時に搭載された2リッターエンジンは、アクセラ2.0用のエンジンを最低限の変更で縦置き化したものだ。ちなみにこのエンジンは、北米ではND型のデビュー時からソフトトップモデルにも搭載されていた。
詳細は後述するが、デビュー時から、1.5リッターエンジンの方はもっと手が込んでいた。ソフトトップのロードスター用SKYACTIV-G 1.5は、基本設計をアクセラと共用するが、クランクやピストンなどの枢要部品の多くが別物で、走りもフィールも別物だ。ところが、カタログやウェブサイトで、マツダはアクセラ用もロードスター用も区別なく「SKYACTIV-G 1.5」と呼ぶのでややこしい。実はエンジン型式を見ると、アクセラ用は「P5-VPS型」、ロードスター用は「P5-VP[RS]型」と、別の型番を持つエンジンだ。そして今回の2.0に加えられたチューニングは、簡単に言うとこのP5-VP[RS]型のやり方に習ったものだ。
新旧RFを乗り比べると、エンジンの違いは明らかで、ちょっと旧型のオーナーには申しわけないが、あからさまなことを言うと、あらゆる場面で新型の圧勝である。スペックを比較すると、115kW(156ps)/6000rpm→135kW(184ps)/7000rpm/200Nm(20.4kg-m)/4600rpm→205Nm(20.9kg-m)/4000rpm。回転上限は6800rpm→7500rpmとある。
「トップエンドの吹け上がりが違う」とか「絶対的なパワーに差がある」という程度ならまだ良いのだが、アイドリングでクラッチをつないだ瞬間から、いかなる速度でも、あるいは、いかなる加速要求に際しても質感が向上していた。改良点は多岐におよぶので全網羅はできないが、ピストン27g、コンロッド41gの軽量化に加えて、従来ギヤ鳴りの問題で着手できなかったフライホイールの軽量化と、フルカウンタークランクを採用したことの影響は大きい。この辺りの詳細はとても原稿1本で説明できるものではないので、興味のある方は拙著『スピリット・オブ・ロードスター』(プレジデント社刊)をご一読いただければ幸いである。
正直、その投入技術は、同じエンジンの改良と言うレベルではなく、並のエンジンとスポーツグレードのエンジンくらい違う。しかも無理くりのチューニングではなく、極めてバランスが良いとくる。これまでにRFを買ったお客さんのことを考えるとちょっとさすがに割り切れない。ましてや筆者の記事を読んで買った人だって多くはないけれどいるはずだ。マツダの人に「RFのデビュー時からこの仕様にできなかったんですか?」と聞くと、「残念ながら、リソース的に無理でした」と言う。
ちなみに足回りのブッシュもファインチューンされ、乗り心地が若干良くなった。こちらに関しては旧型もスポーツカーとしては乗り心地が悪いものではなかったことが救いだが、では新型で乗り心地の向上と引き換えにフィールが失われたり、だらしなくなったりしているかというと、そういうトレードオフもない。
そんなわけで旧型オーナーの気持ちになると相当に複雑と言わざるを得ない進歩だが、翻ってそれくらい良くなったのもまた事実である。
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