騒動がなくても阿波踊りの観光客は減少した、根深くて単純な理由:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
徳島の「阿波おどり」をめぐるバトルが世間の注目を集めた。総踊りなどつつがなく行われたが、終わってみれば来場者数は昨年より減少した。「徳島市と踊り手の対立が観光客の足が遠のかせたのでは?」といった指摘が出ているが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。どういうことかというと……。
「税金で食わせてもらうのが当たり前」の発想
徳島市の遠藤市長が委託した弁護士、公認会計士などから作る「阿波おどり事業特別会計の累積赤字の解消策等に関する調査団」の報告書を読むと、観光協会は昭和50年代から累積赤字を積み重ねてきたことが分かる。
徳島県と徳島市から補助金の交付を受けて「公益目的事業」として阿波おどり事業を進めてきたが、「収支均衡を考慮した議論や収支改善の方策や累積赤字の解消に向けた議論がなされた形跡がほとんど認められない」という。つまり、40年近く「税金で食わせてもらうのが当たり前」の発想でやってきたのである。
なぜこうなってしまうのかというと、観光協会の面々をみれば一目瞭然だ。
「行政、阿波おどり関係団体、宿泊業界団体、交通事業者、マスコミ、金融機関、商業関係団体の役員等」(報告書より)――。そう、阿波おどりという見学スポットにぶら下がって甘い汁を吸い続けられる既得権益者の皆さんである。
報告書ではこれらの人々に「当事者意識の希薄さ」が見られると指摘していたが、当事者意識を持てというほうが無理な話だ。彼らからすれば、累積赤字の解消や収支改善などどうでもいい。大切なのは、阿波おどりという「客寄せパンダ」にいかにうまくぶら下がって、自分たちの商いをうまく回すことのほうだからだ。
いくら何でも観光協会を悪く言い過ぎだと不快になる方もいらっしゃるかもしれないが、彼らが骨の髄まで「見学型観光」に毒されてしまっていたことは、過去の動きからも分かる。
本来、40年近く赤字続きのイベント運営なのだから、収支構造を抜本的に見直すような改革が必要なのだが、実行委員会はその逆をする。03年まで見物できる桟敷席は全席自由席だったが、この5分の3を高価格帯の指定席へと変更。それだけでは単に「値上げ」になってしまうので、「二部入れ替え制」を開始したのだ。
「これで、収容人員が約45%アップ、二千四百四十万円の増収が見込まれ、四億円に膨らんだ累積赤字は十年で解消できる試算」(読売新聞 2003年12月23日)
客数を増やすための努力ではなく、1人当たりの単価と収容人数の調整で乗り切ろうとする。ゴールデンウィークや夏休みという大型休暇に集中して、客をさばくことでもうけを得てきた「昭和の見物型観光」の典型的な考え方と言えよう。
関連記事
- NHK「夏休み子ども科学電話相談」の仕掛人に、舞台裏を聞いてきた
ここ数年、NHKラジオ第1の「夏休み子ども科学相談」が話題になっている。子どもと先生のやりとりはそれほど変わっていないのに、なぜ人気が出ているのか。番組スタッフに、その要因を聞いたところ……。 - 6畳弱の狭い物件に、住みたい人が殺到している理由
6畳弱の狭い物件が人気を集めていることをご存じだろうか。物件名は「QUQURI(ククリ)」。運営をしているピリタスの社長に、その理由を聞いたところ……。 - 剛力彩芽が叩かれる背景に、日本人の国民性
タレントの剛力彩芽さんが、ネット上で壮絶なリンチにあってしまった。交際宣言したスタートトゥディの前澤友作社長と同じタイミングで、ロシアW杯を観戦した写真をInstagramにあげたところ、批判が殺到したのだ。それにしても、なぜこのような「いじめ」が後を絶たないのか。 - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。 - 「一蘭」にハマった外国人観光客は、なぜオーダー用紙を持って帰るのか
ラーメン店「一蘭」といえば、食事をするスペースが仕切られている味集中カウンターが有名である。珍しい光景なので、外国人観光客も写真を撮影しているのでは? と思っていたら、店員さんに「オーダー用紙を持ち帰りたい」という声が多いとか。なぜ、そんな行動をしているのかというと……。 - なぜ日本のおじさんは怒ると「責任者を呼べ!」と騒ぐのか
街中を歩いていて、おじさんが「責任者を出せ!」と騒いでいるのを聞いたことはないだろうか。例えば、駅員に大声を出したり、コンビニの店員を叱ったり、とにかく日本のおじさんはよく怒っている。なぜおじさんは「責任者を呼べ!」と叫ぶのか、その背景を調べてみると……。 - 大東建託が「ブラック企業」と呼ばれそうな、これだけの理由
電通、NHK、ヤマト運輸など「ブラック企業」のそしりを受ける大企業が後を絶たないが、ここにきて誰もが名を知る有名企業がその一群に加わるかもしれない。賃貸住宅最大手の「大東建託」だ。なぜこの会社がブラック企業の仲間入りするかもしれないかというと……。 - 電通や東芝といった大企業が、「軍隊化」してしまうワケ
電通の女性新入社員が「過労自殺」したことを受け、「オレの時代はもっと大変だった。いまの若い者は我慢が足りない」と思った人もいるだろう。上の世代にとっては“常識”かもしれないが、なぜそのような考え方をしてしまうのか。 - なぜレオパレス21の問題は、旧陸軍の戦車とそっくりなのか
レオパレス21が「界壁」問題で揺れている。界壁とは、部屋と部屋の間を仕切るモノだが、同社の物件には屋根まで達成していないモノが複数存在していることが分かった。この問題に対し、筆者の窪田氏は「日本型組織のスタンダート、というか伝統だ」と指摘する。どういう意味かというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.