サービス業界の働き方改革に、残業削減だけじゃない「ひと工夫」が必要な理由:破産寸前の旅館が復活(1/2 ページ)
“ブラックだ”と批判されることも多いサービス業界。生産性の低さや、労働者の裁量性の低さも問題視されている。どうすれば改善できるのかをリクルートワークス研究所の専門家に聞いた。
「宿泊、小売り、飲食といったサービス業界は、労働時間が長いにもかかわらず生産性が低く、ブレークスルーがなかなか起こらない」――リクルートワークス研究所の城倉亮 研究員は、8月23日に開いた会見でこう指摘した。
日本生産性本部の調査によると、日本のサービス業の生産性は米国の約半分にとどまる。また、同分野の従業員の約4割が週に計45時間以上の労働を行っているほか、「裁量を持って仕事ができない」と不満を持つ人が増えているとの調査結果もある。
こうした要因によって離職率が高いサービス業では、人手不足が深刻化。「人手が足りず、事業に悪影響が出ている」と危機感を感じながら働いている従業員も多いという。
城倉氏は「サービス業には、従業員が働きやすい環境を整備できている会社や、やりがいが得られる業務内容を提供できている会社が少ない。『働き方改革』によってここを変えるべきだ」と強調する。
重要なのは「タスクマネジメント」
同氏によると、サービス事業者が特に改革すべき点は「タスクマネジメント」。業務上のさまざまなタスクが持つ意味・価値を明らかにし、それに応じて取り組み方や任せ方を変えたり、必要に応じて廃止したりすることを指す。
タスクマネジメントには、顧客のサービスを豊かにする「タスクの高付加価値化」と、自社の事務処理や情報伝達のプロセスを見直す「タスクの効率化」の2つの側面があるが、多くの企業は後者を重視しすぎており、前者がおろそかになっているという。
「残業を減らすことだけが働き方改革ではない。サービスの質を高め、顧客満足度の向上につなげなければ、ビジネスは立ち行かなくなる」(城倉氏、以下同)
「サービスに手間をかける」「無駄な業務はやめてみる」
城倉氏は、タスクの高付加価値化の手法として、(1)時間と手間をかけること、(2)場所を変えて顧客接点を生み出すこと、(3)データを従業員に開示して接客に生かすこと、(4)従業員に予算権限を一定の範囲内で認め、働きがいを高めること――を紹介。
タスクの効率化には、(1)付加価値向上につながらないタスクを廃止すること、(2)場所や時間が異なるタスクを特定の環境下に集約すること、(3)ITツールや外部リソースを有効活用すること、(4)1人の従業員に、可能な範囲内で複数のタスクを兼務させて人材配置の無駄をなくすこと――などが重要だと説いた。
老舗旅館が業態改善に成功
こうした理論を理解していても実際のビジネスに応用することは難しそうだが、城倉氏は、「赤字が続いていた老舗旅館が業務にうまく取り入れ、経営の立て直しに成功した」と明かす。
その旅館とは、1918年(大正7年)創業の和風旅館「鶴巻温泉 元湯 陣屋」(神奈川県秦野市)。1万坪の広さを誇る庭園や露天風呂付きの客室を持つ歴史ある旅館だが、客離れが進み、2009年には10億円の債務を抱えていた。客単価も、宿泊施設としては少ない9800円にまで低下していた。
同旅館はまず、他の旅館との差別化を図るため「高品質な料理を強みにする」との目標を設定。高品質な食材を時間をかけて調理し、提供時にスタッフが解説するなど時間をかけることを惜しまないようにした。メニュー開発にかける予算も増やした。
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