サービス業界の働き方改革に、残業削減だけじゃない「ひと工夫」が必要な理由:破産寸前の旅館が復活(2/2 ページ)
“ブラックだ”と批判されることも多いサービス業界。生産性の低さや、労働者の裁量性の低さも問題視されている。どうすれば改善できるのかをリクルートワークス研究所の専門家に聞いた。
部屋に料理を運ぶ「おもてなし」をやめてみた
従来の「陣屋」はスタッフが客の居室まで料理を運び、室内で飲食してもらう昔ながらのシステムだったが、これも撤廃。敷地内に食堂を設け、サービス提供の場所を変えることでスタッフの持ち運びの負担は大幅に減った。「料理が冷める」などのクレームも減った。
顧客情報をリアルタイムで端末に入力し、スタッフ間で情報共有する仕組みも導入。左利きの客が訪れると、受付担当者が顧客管理システムに入力し、食堂のスタッフにすぐ伝達。左利きの人でも使いやすいよう、箸や食器の置き方を変えるなどの工夫をした結果、その用意周到ぶりに客が喜ぶことも増えたという。
また、一連の工夫をしても稼働率が悪い曜日を調査し、思い切って「定休日」に設定。従業員に週2日の休みを確保し、労働環境の改善と人件費削減を図った。
こうした改革により、09年に2.9億円だった売上高は、17年には5.6億円に拡大。6000万円の赤字だったEBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)は1億6000万円の黒字に転じた。客単価は4万5000円に伸びた。
「主なターゲットを富裕層に設定し、それに見合ったサービスを提供できる適切な体制を設けたことが奏功した。料理などの価格を引き上げても、顧客がついてこなければさらに苦戦していた可能性もあったが、細部にこだわったことが勝敗を分けた」と城倉氏は指摘する。
串カツ田中の「新卒だらけの店」も効果大
同氏はまた、サービス業における働き方改革の成功例として「串カツ田中」が18年4月にオープンした、新卒社員を多く配置した店舗「研修センター店」を挙げた。
接客を苦にしてすぐ辞めてしまう新人スタッフを減らす狙いで、生ビールを半額に割り引くサービスなどを客に提供する代わりに、少しのミスは暖かく見守ってもらうというコンセプトの店舗だ。
「これも『場所を変える』『タスクを集約する』が奏功した例だ。オープンから4カ月がたった現在は、接客の楽しみを理解し、伸び伸びとスキルを伸ばす新人が増えている」
城倉氏はこのほかにも、ミシュランで3つの星を取得し、客が殺到したことを機にランチ営業をやめ、あえて高価格帯のディナー営業に特化したことで収益性を高めたフランス料理店などを「タスクの廃止」「人材配置の効率化」の良い例として紹介していた。
城倉氏は「一連のフレームワークはサービス業だけでなく、他のビジネス領域にも応用できるだろう。繰り返しになるが、『働き方改革』とは残業を減らすことではない。仕事を集約したり、ちょっと場所を変えてみたりする考え方の転換が、生産性を高める上で重要だ」と話している。
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