正体不明の楽器「Venova」は、どのようにして生まれたのか:あの会社のこの商品(4/4 ページ)
楽器を演奏してみたかったけど、高価すぎて断念した。こんな思いをした人も多いのでは? この課題にヤマハは挑み、気軽に始められ比較的安価な新ジャンルの楽器を開発。一度見たら忘れそうにないデザインの「Venova」を生み出した。インパクト十分の楽器は、いかにして誕生したのであろうか?
世界で年間3万5000本販売
17年4月、同社はドイツで開催された「フランクフルトミュージックメッセ」に出展し、「Venova」を初出品。これをきっかけにして海外販売が始まり、その後日本でも発売が始まった。
これまでにない楽器であるため、まずは広く知ってもらうことが重要だった。コンセプト、解説、演奏、レッスンに関する動画をつくりYouTubeにアップしたほか、国内/国外問わずインフルエンサーになるユーチューバーやサクソフォンのプレイヤーによる演奏動画も配信。気軽に演奏して楽しんでいる様子を伝えることにした。
教本『はじめてのヴェノーヴァ』も、「Venova」発売と同時に売り出した。取り扱い方だけでなく、全24曲の楽譜を収録している。17年11月には第2弾の教本「ヴェノーヴァで吹きたいレパートリー」も発売。クラシックの名曲だけでなく、CMソングやドラマのオープニングテーマなど幅広く選曲し、全45曲の楽譜を収録した。
このように、これまではレッスン料がかからず一人で練習できる環境を整えてきたが、徐々に「教室はないのか?」といった声が目立つようになってきた。そこで最近は、ヤマハの直営店や特約店で教室が開催されるようになった。
「Venova」は世界で年間3万本を目標に発売したが、これらの取り組みが奏功し、世界で年間3万5000本販売した。
歴史と伝統のある管楽器の中でイノベーションを起こし、これまでにない新しい楽器を誕生させたことは、同社にとって貴重な体験になったに違いない。「Venova」が目指した、楽器演奏を身近に、カジュアルなものにする新ジャンルの楽器がいろいろ登場すれば、演奏家人口も増えるだろう。
著者プロフィール:
大澤裕司(おおさわ・ゆうじ)
フリーランスライター。1969年生まれ。月刊誌の編集などを経て、2005年に独立してフリーに。工場にまつわること全般、商品開発、技術開発、IT(主に基幹系システム、製造業向けITツール)、中小企業、などをテーマに、雑誌やWebサイトなどで執筆活動を行なっている。著書に『これがドクソー企業だ』(発明推進協会)のほか、ITmedia ビジネスオンラインの人気連載をまとめた『バカ売れ法則大全』(行列研究所/SBクリエイティブ)がある。
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