有明ノリとシャケの争奪戦 ファミマの担当者が語るおむすび刷新の舞台裏:競合には負けられない(3/4 ページ)
コンビニ各社はおむすびの商品開発に力を入れている。味や風味の向上が注目されがちだが、原材料の調達を巡って各社はしのぎを削っている。ファミマの調達担当者におむすび開発の舞台裏を聞いた。
ノリの調達を巡り繰り広げられる情報戦
池内氏によると、18年7月に刷新した手巻きおむすびに利用する有明産ノリの調達にも苦労したという。
まず、ノリの調達方法について簡単に解説しよう。ファミマは複数のノリメーカーからノリを調達している。ノリメーカーは毎年、11月〜2月にかけて入札によってノリを仕入れ、ファミマに販売する。ノリメーカーは、ファミマとだけ取引しているのではなく、他のコンビニチェーンとも取引していることが多い。
コンビニ各社は一定以上の水準を満たすノリを安く仕入れたいと考えているため、ライバルが予定している入札額や仕入れ数量などを巡り、熾烈(しれつ)な情報戦が繰り広げられると池内氏は説明する。
池内氏は「18年7月のリニューアルにあわせて、よい品質のノリをより安く仕入れることができた」と胸を張るが、その背景にあったのは、長年調達の業務に関わる中で培ってきたノリメーカーとの信頼関係と、交渉に当たって安易な妥協をしなかったことだという。
ノリの風味をどう高めるか
ノリを無事に調達できたとしても安心できない。池内氏が同時に取り組んだのは、おむすびの刷新にあわせたノリの品質向上だ。
池内氏によると、ノリは焼き立てのパリパリとした状態が最もおいしいという。しかし、ノリは製造してから徐々に水分値が上昇し、パリパリとした食感が失われる。
製造時におけるノリの水分値を少なくすれば問題が解決するわけではない。水分値が低すぎると、おむすびをフィルムに巻く工程などで扱いにくくなってしまうため、ノリメーカーやおむすびを製造するディリーメーカーとの調整が必要になるからだ。
こういった事情を加味しながら、おむすびが店頭に並ぶ時点から逆算して、ノリの生産時における水分値やおむすび製造時の水分値を細かくコントロールする必要がある。さらに、季節によっても水分値を細かく調整しているという。
水分値だけでなくノリの風味向上にも池内氏は取り組んだ。焼く温度によって、ノリの風味は違ってくる。ファミマが希望する風味を実現するために、外部の調査機関に異なる焼き加減のノリを提出し「どういった焼き方ならば香りが強く出るか」といったことを調査してもらった。風味を数値化したデータなども踏まえ、理想のおむすびを実現するために、ノリメーカーを根気強く説得していった。商品開発を丸投げするのではなく、自社からも働きかけていったのだ。
こういったファミマの細かい要求に対して、ノリメーカーが難色を示した場面もあっただろう。しかし、池内氏は手巻きおむすびが消費者に支持されれば、ノリの需要も増えて、結果的に両社が得するということを訴え、協力を取り付けていった。
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