65歳でネスレに中途入社したベテラン営業マンが輝いている理由:シニアスペシャリスト採用の条件(1/4 ページ)
大手メーカーで営業マンとして20年以上働き、50代で起業経験もある石川さんは、65歳でネスレ日本に入社した。上司や同僚にも仕事ぶりが評判だというが、そのわけとは――。
ある日突然、あなたが働く会社に60歳以上のビジネスパーソンが中途入社して、隣の席にやって来たら、あなたはどのような反応をするだろうか?
大手メーカーで営業マンとして23年間働き、50代で起業の経験のある石川一成さんは、2018年4月に65歳でネスレ日本に入社した。若手の前でも偉ぶらず、担当する店舗に足繁く通う仕事熱心な姿勢が上司や同僚にも評判だという。
石川さんのような即戦力となるシニア世代を呼び込もうと、ネスレは今年から60歳以上を対象とする「シニアスペシャリスト採用」制度をスタートした。反響は非常に大きく、「まだまだ働きたい」という意欲のあるシニア層からの応募が多数集まっているそうだ。
「人生100年時代」と言われる今、定年退職後の過ごし方に漠然とした不安を感じる読者も多いだろう。企業側は、人手不足を補う労働力としてシニア世代に期待する向きもあるが、60歳以降も継続雇用する社員の扱いに苦慮しているという話もよく聞く。
会社はシニア世代のスキルや経験を生かす環境作りをし、シニア社員は年下の上司や同僚と調和して上手に貢献する――。そんなWin-Winな関係が実現すれば理想的だが、そのためのポイントはどこにあるのか? ヒントを得るべく、石川さんとネスレで常務執行役員 人事総務本部長を務める芹澤祐治さんに話を聞いた。
「若いころのように仕事に燃えたい!」
鹿児島県出身の石川さんは、故郷の人気者である西郷隆盛のように頑丈ないで立ちが印象的だ。聞けば、学生時代に野球と合気道、社会人になってからはボディビルをやっていたという。体力には自信がある。「会社から要らないと言われるまでは、仕事を続けていきたい」と意気込んでいる。
石川さんは大学卒業後、国内の大手時計メーカーと乳製品メーカーに合わせて30年ほど勤めた後、50代半ばで友人に誘われて独立した。業務用の洗剤を売る会社を経営していたが、東日本大震災の影響で売り上げが落ち、やむなく会社をたたんだ。その際、石川さんは多額の負債を抱えることになる。自己破産も考えたが、逃げずに働いて返済していく道を選んだ。
その後、マンションの管理人や入居者の立ち会いなどの仕事をしたが、どうしても物足りなさを感じていた。そんな時に目に止まったのが、ネスレのシニアスペシャリストの求人だったという。
「以前、メーカーで営業をやっていたときにはかなり仕事に燃えていましたので、もう一度そういう風に働きたいと、営業の仕事を探していたんです。そんな時にたまたまネスレの求人を見つけました。年齢と経験の条件は当てはまっていたので、出すだけ出してみようと応募しました」(石川さん)
ネスレが18年1月から正式にスタートさせた「シニアスペシャリスト採用」は、60歳以上という条件で幅広い職種での経験者を募集している。石川さんが見つけた求人は、そのトライアル版として昨年末に営業職に限って募集をしたものだった。
同社がこの制度を始めたのは、高岡浩三社長のアイデアがきっかけだ。芹澤さんが人事総務本部長に着任した昨年、こんなやり取りがあったそうだ。
「『世の中、歳をとっても元気な人が多いよね。年金をもらえる年齢はどんどん延びていずれ65歳になるし、一方で若い人は減っている。だったら、60歳以上の人をもっと活用したらいいんじゃないの』と、高岡が言い出したんです。それはそうだな、ということで検討を始め、今年から具体的なアクションを起こしました」(芹澤さん)
募集を始めてみると予想以上の応募が集まった。応募書類の全てに目を通しているという芹澤さんは、「ものすごく情熱的な履歴書を書いてくださる方が多い」と語る。「これまでの会社でお世話になった分、今後は社会に貢献したい」というシニア層ならではの気持ちを持つ人も目立つという。
関連記事
- 弱みだった「人」をどう変えた? アルバイト出身の女性役員が語るスープストックトーキョー流の働き方
スープ専門店「Soup Stock Tokyo」を展開するスープストックトーキョーでは従業員の働きがいと働きやすさを推進し、顧客へのサービス向上や従業員のキャリア支援にもつなげようとしている。その取り組み内容や成果について、同社取締役の江澤身和さんに話を聞いた。 - ファンケルの「アクティブシニア社員」は会社に何をもたらすのか?
労働人口が減少する日本において、いち早くシニア世代が活躍する場所を作ろうとする企業が出てきている。化粧品と健康食品メーカーのファンケルでは65歳以上の社員が柔軟な勤務体系で働き続けられる「アクティブシニア社員」という制度を打ち出した。そこで活躍する社員に実際の話を聞いた。 - “リーマンショック解雇”を機にフレンチの道へ 元外資金融マンが描く「第3の人生」
定年後を見据えて「攻めの50代」をどう生きるのか。新天地を求めてキャリアチェンジした「熱きシニアたち」の転機(ターニングポイント)に迫る。2回目はリーマンショックで「クビ」を告げられ、一念発起してビストロを開業した元外資金融マンの両角太郎さん(54)。 - 世界が知らない“最強トヨタ”の秘密 友山副社長に聞く生産性改革
トヨタがレース活動を通じて働き方改革を推進する理由。トヨタGRカンパニーのプレジデントである友山茂樹副社長へのインタビュー取材によって、なぜそんな大胆な改革が可能なのかを究明した。 - 内気な野球少年が悲しみを乗り越えて大人気水族館の「カピバラ王子」になるまで
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.