新たな在留資格創設、それでも不透明な人材確保:どうする? 介護の人材不足問題(5/5 ページ)
日本全体の労働力人口が減少する中、とりわけ介護人材の確保は難航している。政府も海外からの人材受け入れに躍起になっているが……。
(2)日本では人手不足解消が優先される
翻って日本の介護分野では、人手不足を補うための単なる労働力として、必要に迫られて外国人材に期待する傾向が強く、介護を成長産業としていくために外国人材を活用するという視点が不十分ではないだろうか。
公益社団法人国際厚生事業団[2018]が行ったアンケート調査によると、EPA候補の受け入れ目的についても「介護職員の人員不足解消のため」(95.9%)と回答する施設の割合が最も大きい(※11)。増大する介護需要に対応するための人材確保は不可欠だが、就労先として積極的に選択されているわけではない日本が、外国人材を戦略的に活用していく展望を示すことができなければ、外国人材の継続的な確保や定着は難しいだろう。
スウェーデンの介護事業者のように海外展開をいきなり手掛けるわけにはいかないとしても、日本国内での需要増大という、ある意味では事業としてのチャンスが大きい市場であるということを海外に向けて発信するような発想があってよいだろう。
介護分野においても、これからはAI(人工知能)の実装、ケアの内容のデータを収集・分析するデータベースの構築とその活用、ロボット・IoT(モノのインターネット)の活用が大きく進む時代に向かっている。
好循環が生まれることで人材不足の緩和につながる可能性
介護人材不足を背景に、外国人労働力に期待が集まっている。政府は従来の受入れ手段に加え、就労を目的とした新たな在留資格を創設する方針であるが、期待どおりに外国人材を確保できる保証はない。介護分野で就労する外国人材を、単に人手不足を補完する手段でなく、日本の介護産業に変革をもたらす存在と捉え、生産性向上の契機とすることが期待される。
日本銀行名古屋支店[2018](※12)によると、外国人労働者の戦略的な活用を行うことは、外国人労働者の活躍を重視しているとのメッセージとして外国人労働者のモチベーションの向上に資するのみならず、日本人労働者にとってもグローバル展開に円滑な対応が可能になるといった効果が期待できると指摘している。外国人労働者の活躍促進に向けて戦略的な活用を行うことが、就労先としての魅力を高めていくことになるという。
世界で最も高齢化が進む日本の介護人材不足を解消するためには、ロボットやIoTの導入などさまざまな対策を並行して進める必要がある。それらの一つとして注目される外国人材の活用を、多様性を生かした新ビジネスの創出や付加価値サービスの追求と結び付けることで、結果として、国内外のより多くの人材が日本の介護分野での就労を選択するようになることが期待される。
※11 公益社団法人国際厚生事業団[2018]「平成29年度 外国人介護福祉士候補者受入れ施設巡回訪問実結果について」
※12 東海地域では製造業を中心に技能研修生が現場を支える貴重な存在だが、近年は中国の賃金水準が大幅に上昇し日本の賃金面の魅力が低下しているため、中国からの人材の受入れが頭打ちになっている(日本銀行名古屋支店[2018]「外国人労働者のさらなる活躍に向けて ─東海3県のデータとヒアリングに基づいた現状と課題の整理─」(2018年5月21日))
(石橋未来/大和総研 政策調査部 研究員)
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