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仮想通貨への規制を「赤旗法」にしてはならない(1/4 ページ)

コインチェックの巨額仮想通貨盗難事件以来、国内の仮想通貨を巡る規制は厳しくなってきている。しかしその結果、国内のスタートアップやテック企業によるブロックチェーンを使ったイノベーションには重い足かせがかかるようになった。

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 仮想通貨分野に関する出来事の中でも、2018年1月にコインチェックから巨額の仮想通貨NEMが盗難された事件は記憶に新しい(1月28日の記事参照)。この事件を境に日本の仮想通貨をめぐるビジネスの景色は一変した。金融庁はコインチェック以外の仮想通貨交換業者に対しても監督を大幅に強化した。顧客の資産を預かる金融機関としての手厚い管理体制を求めるようになったのである。

 今や金融庁の指導を順守するには「仮想通貨交換業者には50〜100名規模の専任スタッフが必要になるのではないか」とも言われている。それだけでない。コインチェックは創業者やベンチャー投資家が持っていた同社の株式をすべてマネックス証券が買い取る形とした。つまり既存の証券会社の系列企業となった。この経緯を見て、「他の仮想通貨交換業者も既存の金融機関の系列に入ることを求められるのではないか」との観測もある。

スタートアップから金融機関に

 コインチェックの体制変更は、スタートアップ企業から金融機関へと会社の姿を変えたことを意味する。

 コインチェックやビットフライヤーのような仮想通貨交換業者は、スタートアップ企業として出発した。スタートアップ企業はハイリスク・ハイリターンを前提とし、イノベーションの波に乗ることで、初期段階では赤字を出してもそれを乗り越えて急成長すること(「Jカーブ」と呼ぶ)を期待されている。大企業では手を出しにくい新規ビジネス分野で、実験的な取り組みの仮説検証を行う存在が本来のスタートアップ企業だ。

 一方、仮想通貨交換業者を監督する金融庁が求めているのは金融機関としての規律である。顧客から預かった資産を厳重に管理し、経営者や社員による内部犯行を含めて犯罪や不正行為から守ることが期待されている。イノベーションによる急成長よりも、顧客資産の保護や、監督省庁である金融庁が求める規律を守ることが優先されるのである。

 ここで大きな懸念がある。顧客資産を預かる企業が規律を求められることは当然として、仮想通貨を扱う企業はすべて一律に重厚な管理体制を構築する必要があるのかどうか、という疑問である。

 業界関係者からは、「創業間もないスタートアップ企業が仮想通貨交換業となることはもはや無理だ」との意見を聞く。多くのスタートアップ企業にとって、ここ数カ月の規制強化は、「日本では仮想通貨ビジネスの可能性が閉ざされている」と受け止められているのである。

 「それならば手厚い管理体制を作ればいいではないか」との意見もあるかもしれない。この点については、記事の後半で議論したい。

仮想通貨&パブリックブロックチェーンのメリットと、金融機関の規律の両取りはできるのか

 ひとつ気になっている点がある。仮想通貨とパブリックブロックチェーン技術は、本来の使い方をするなら、重厚な管理体制を抜きに軽量なビジネス展開を可能にする技術なのである。

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