仮想通貨への規制を「赤旗法」にしてはならない(3/4 ページ)
コインチェックの巨額仮想通貨盗難事件以来、国内の仮想通貨を巡る規制は厳しくなってきている。しかしその結果、国内のスタートアップやテック企業によるブロックチェーンを使ったイノベーションには重い足かせがかかるようになった。
未成熟な技術に巨額の投機という行き違い
一つの背景は「技術が未成熟な段階で巨額の資金を集めてしまった」ことにある。仮想通貨交換業者が持っている仮想通貨取引や販売の仕組みは、パブリックブロックチェーンの本来の設計範囲からはみ出している。マウントゴックスやコインチェックで起きた仮想通貨の盗難事件は、この「設計範囲からはみ出している」部分に関する知見の共有が足りなかったことが原因のひとつだった。私たちはより安全なパブリックブロックチェーンの活用方法を研究し、知見を共有する必要があった。事故を起こさなければ、もっと緩やかな規制になった可能性があるからだ。
もう一つの背景は認識の食い違いだ。仮想通貨規制の背後には、「仮想通貨交換業は、巨額の顧客資産を預かる業種である」という認識がある。軽量な組織でイノベーションを目指すスタートアップ企業は認識の範囲外にあるのだ。
確かに、仮想通貨と日本円との交換レートが大きく変動するという性質だけに注目し、その技術的な内容や用途にはほとんど無関心なまま「値動きが大きな金融商品」として、仮想通貨を購入した人々は大勢いた。要は投機である。その結果、仮想通貨交換業者は巨額の顧客資産を預かり、社会的責任を厳しく問われる立場になった。
だが、仮想通貨とは「値動きが激しい金融商品」だけの存在ではない。前述したように、仮想通貨本来のメリットは、「人間の組織ではなく技術により信用を構築する」側面にある。このメリットを引き出したビジネス展開が、規制によって阻まれようとしている。
仮想通貨のメリットは、人間の組織を抜きに信用を構築すること
仮想通貨のメリットを活用したビジネスは、顧客資産を預かる形態だけではない。例えば、商店街のポイントのように「用途を限定した電子マネー」のような使い方もできる。スマートコントラクトを応用して「機能が付いたお金」を作ることができる。例えば、時間とともに価値を減少させることによって地域経済での消費の促進を狙う「減価貨幣」の仕組みを実現することもできる。企業ポイント、地域通貨などを、従来型技術よりも圧倒的な低コスト・高機能なように実現する枠組みとして仮想通貨を使うことが可能なのである。
それだけではない。DAICOと呼ぶフレームワークは、仮想通貨で集めた資金の管理を自動化する。いわば、人間の組織ではなく技術により規律を実現する仕組みがすでに存在しているのである。(編集部注:DAICOとはイーサリアムの開発者であるブテリン氏が提唱した、新しいICOのモデル。ICOを非中央集権で管理することで不正なICOを防ぐことが期待されている)
仮想通貨には、それ以外にもさまざまな可能性がある。筆者としては、私たちが現段階で仮想通貨やパブリックブロックチェーンの性質や可能性の全貌を完全に理解している、と考えるのは傲慢にすぎると考えている。この分野の最先端に取り組むエンジニアや研究者は、まだ誰も見たことがない未来に向けて試行錯誤を繰り返している。今の段階で仮想通貨やパブリックブロックチェーンの可能性を論じることは、1970年代に、登場したばかりのパーソナルコンピュータの可能性を論じたり、1980年代に商用化前だったインターネットの可能性を論じたりすることと似ている。つまり、議論の多くは見当違いである可能性が高く、また想定外の展開となる可能性も大きい。少なくとも筆者はそのように考えている。そして、夢を見て実現しようと努力し続ける人々がいたからこそ、パーソナルコンピュータもインターネットも本格的に普及したことを忘れてはならない。
多くの人々がアイデアを持っており、そのアイデアがどれだけ社会にインパクトを与えるかどうかは、試してみないと分からない。そのような未検証のアイデアが日々生み出されて試されているのが、仮想通貨およびパブリックブロックチェーンなのだ。
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