ピンチをチャンスに変えてきた――旭酒造・桜井会長が振り返る「獺祭」と歩んだ日々:“負け組”だからこその戦略(3/4 ページ)
日本酒「獺祭」を製造する旭酒造の桜井博志会長が、東京工科大学(東京都八王子市)で行われた特別講義に登壇。「獺祭」を世界的なブランドに育てる上で味わった苦労や、酒づくりに対するこだわりなどを語った。
「量を売るための酒ではなく、味わう酒を目指す」
こうしてピンチをチャンスに変え、旭酒造の体質を抜本的に改善した桜井氏には、獺祭を売る上でもう1つこだわっていることがある。それは「量を売るための酒ではなく、味わう酒を目指す」ことだ。
「大量製造・大量販売の論理を捨て、お客さんの幸せを第一に考えることにした。他社は値引きしたり、景品を付けたりし、たくさん売ることを目標に掲げているが、当社は酒の品質を高め、必要としてくれるお客さんに必要な分だけ売れればいいとの考えに至った」
現在も旭酒造は、中間流通業者を使わず、「獺祭」のコンセプトを丁寧に説明し、酒づくりのコンセプトに賛同した酒屋とだけ取引する方針を貫いている。品質とブランド力を保つため、コンビニやスーパーなどとは取引しておらず、基本的にはテレビ広告や新聞広告も出さないよう徹底している。
この方針だと、中間流通業者にマージンを支払う必要がないほか、マーケティングへの投資も必要ない。そのため、浮いた資金を、社員教育や設備投資などに回すことが可能となり、酒の品質を保つことができているのだ。
「おいしさという“実質的な価値”がある酒は、マーケティングにこだわらなくても、どんな場所でも通用する。実際に、パリやニューヨークで『獺祭』を提供した時も、日本酒を一切知らない多くの外国人客が『おいしい』と評価してくれた」
独自のブランド戦略で培った自信を胸に、旭酒造は今後、フランスや米国でも「大きな市場で小さなシェアを狙う」作戦を推進していく。
18年4月には、パリのエリゼ宮の近隣に、有名レストランとコラボした料理店「ダッサイ・ジョエル・ロブション」をオープン。米ニューヨーク州ハイドパークに、試飲ができる販売店と精米工場を建設する計画も進んでいる。
西日本豪雨での被災も乗り越えた
地域社会のしがらみや、業界の縮小といったピンチを乗り越えてきた旭酒造だが、実は最近も「天災」という苦難に見舞われていた。
同社は18年6月末〜7月上旬に発生した西日本豪雨によって浸水と停電の被害を受け、7月上旬〜7月末にかけて操業を停止。排水処理施設がダウンし、被害総額が約15億円に上るダメージを受けた。
さらに、停電の影響で、当時約70万本が発酵途中だった獺祭のうち、58万本の温度管理が不十分となり、出荷できない状態となった。
だが旭酒造は、そんな状況をもチャンスに変えた。漫画「島耕作」シリーズ(弘兼憲史作)に「獺祭」がモチーフの酒が登場する縁で、同作品とのコラボが決定。品質が出荷基準に満たなかった酒のラベルに「島耕作」を描き、「獺祭 島耕作」と名付けて1200円で販売したのだ。
その結果、「獺祭 島耕作」は直営店で完売。1本当たり200円を被災地への義援金に充てたため、岡山、広島、山口、愛媛の4県に総額約1億1600万円を寄付することにも成功した。
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