先日、某IT企業の社長がTwitterで、「喫煙者は採用しません」と宣言しました。「喫煙は、会社にとっていいことが何もない」ことを理由としているようです。
タバコを吸うこと自体に意味やメリットがあるかどうかはさておき、嗜好品として法律で認められているものを、採用の判断基準に使用するのは許されるのでしょうか。
弁護士法人プラム綜合法律事務所の梅澤康二弁護士に聞いてみました。
喫煙者を採用しないのは法律的にアリ?
――募集の際に、「喫煙者は採用しない」と宣言し、応募時に誓約をさせることは違法になりますか?
梅澤弁護士: 企業には採用の自由が保障されていますので、採用条件は企業が自由に設定できるのが原則です。しかし、採用の自由が制限されるケースもあります。
例えば、雇用対策法10条では、一定の場合を除いて、採用募集の際に年齢制限をすることを禁止しています。また、男女雇用機会均等法では、5条で性別による直接的な差別、7条では性別による間接的な差別によって、採用を区別することを禁止しています。
性別による間接的な差別とは、例えば「身長・体重・体力」などに制限を設け、実質、性別によって採用を区別しているのと変わらないと思われる行為のことです。
さらに、行政通達によって、本人に責任のない事柄や、思想信条に関する事柄について情報を収集し、これを採用判断の要素とすることは禁止されています。
今回の喫煙の有無は上記の例外事由には含まれませんので、非喫煙者であることを採用条件とすることは直ちに違法とはならないと考えます。もっとも、採用時にそのような誓約をしたからといってこれが強い効力を有するとは思われません。
もしも、今回のケースで採用した人に喫煙の事実が発覚した場合でも、即解雇という対応はとれませんし、「喫煙をした」という事実のみで何らかの処分をすることも難しいと思います。
喫煙以外の、「経営者の好み」に関する場合はどうなる?
――タバコの場合、体に悪影響があったり、喫煙者だけ休憩が多くなったりするので、喫煙者を採用しないと宣言する経営者の気持ちも分かります。しかし、そういった問題も一切ない、完全に「経営者の好み」で特定の対象者を採用しないのは違法になりますか。
例えば、(1)野菜を食べない人は採用しない、(2)社長のお酒に付き合わない人は採用しない、(3)特定のテレビ番組を見ている人は採用しない、などです。
梅澤弁護士: 採用の自由に対する制約は現時点で前述した通りですので、これに該当しないのであれば、採用する・しないは企業の自由です。従って、上記のような幼稚な理由で採用する・しないを決定しても問題ありません。
しかしながら、野菜を食べない、酒を飲まない、特定のTV番組を見ないということが本人の思想や信条に関わるような場合には、これを理由に採用しないことは不適切ですし、場合によっては違法な就職差別と評価される可能性があります。
そのため、本人の自由にゆだねるべき事柄を問題視して、採用・不採用を判断する姿勢はおすすめできません。
まとめ
企業には人を自由に採用する権利がありますが、以下のような制限があります。
- 募集の際に年齢制限を設けること
- 男女どちらかの性別だけを募集すること、採用条件などで間接的にどちらかの性別だけを募集すること
- 本人に責任のない事項(容姿、両親の職業、思想・宗教など)について応募用紙に書かせたり、面接時に尋ねたりして採用判断の要素にすること
つまり、上記にあてはまらない「喫煙者を採用しない」については違法とは考えにくいようです。
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