2年間で2万個突破! 竹島水族館の「気持ち悪い」土産を作り出したプロ集団:ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(4/4 ページ)
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。
自分よりも他人を優先できるリーダー。だから、周りが積極的に協力する
そして完成した「超グソクムシ煎餅」。2016年4月から年間1000個を目標に売り出したところ、GWが終わる頃には完売してしまった。土産品としては異様な売れ行きである。小林さんは「箱が欲しくて買ってくれるお客さんが多い」と分析している。
「煎餅を食べ終えても箱を捨てずにおくのだそうです。筆箱にしたり、底に穴を開けてミニ四駆を入れてチョロQみたいに走らせたり。お土産品は四角い箱が普通だと僕は思っていたのですが、『他と一緒では売れません。むしろ箱で売りましょう』と提案してくれた富田さんのおかげでヒット商品が生まれました」
一方の富田さんは小林さんの細やかなリーダーシップを指摘する。地元の経営者勉強会が発端となったので、企画料や試作料などを請求しようとは思わない。しかし、自分たちは商売人。赤字を被るようなマネはしない。この「超グソクムシ煎餅」にしても、在庫リスクは竹島水族館が負うからこそ成り立った商品だ。
「それなのに小林さんは、『ちゃんと利益は出てますか?』といつも気にしてくれるんです。自分よりも他人を優先できるので、周りにいる私たちも積極的に協力したくなるのだと思います」
童庵の安藤さんは周囲の反対を押し切って「超グソクムシ煎餅」に取り組んで良かったと言い切る。ヒットによる金銭的なメリット以上に、面白い挑戦をしている和菓子店として話題になり、人のつながりが広がっていることが大きいという。
「小林さんから学んだことがあります。価格を決めるときに安めの金額を主張する小林さんに対して、『それだともうけることができませんよ』と私が意見。小林さんから返って来た言葉は『そんなに、もうけなくていいんです。お客さんが楽しんでくれるのが大事なので』という意外なものでした」
まずはお客さんが喜ぶことを考え、次に仕入れ先などの関係者に損をさせない配慮をする。そのために自分たちでできることは面倒臭がらずに全てやる。手慣れた様子で箱詰め作業をする竹島水族館の飼育員たちの後ろ姿に、ヒット商品を支える誠実で地道な姿勢を見た気がする。
著者プロフィール
大宮冬洋(おおみや とうよう)
1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している(2018年7月現在で通算100回)。著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せのつかみ方〜』(講談社+α新書)などがある。 公式Webサイト https://omiyatoyo.com
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