スルガ銀行の不祥事を地銀は笑えない:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
第三者委員会の公表によってスルガ銀行の常軌を逸する実態が明らかになった。この一連の事件については開いた口がふさがらない。しかし一方で、他の地銀はこのスルガ銀行の不祥事を笑っていられるのだろうか。
業界が全く異なるが、今年8月で29期連続増収増益を達成したドン・キホーテは、縮小する市場の中で独自のビジネスモデルを作り上げた企業だ。
同社の設立当時は仰ぎ見るような存在として小売業界に君臨していた総合スーパー(GMS)が次第に衰退していく中、破たんしたGMSを救済する立場にまで成長し、今やイトーヨーカ堂の背中が見えているところまで来た。
ドン・キホーテはGMSを始めとする小売大手が基本とするチェーンストア理論に、あえて逆張りすることで差別化を実現した。GMSが中央集権的な組織と集中購買をベースに均一的な大型店を展開してファミリー層を取り込むスタイルだったのに対して、ドン・キホーテは、個店に広く権限移譲し、陳列や仕入れも店舗に主導権を持たせた。店舗には均一性も要求されない。個店の判断に基づく成果が、報酬や人事に直結する仕組みであるため、現場のモチベーションは極めて高い。
深夜に時間に余裕のある若者を、低価格商品で呼び込み、山積みの商品とPOPで構成する圧縮陳列という独特の暇つぶし空間を作り、ついで買いをさせる独特の店をつくり、それを増殖させていった。主流のアンチテーゼを行えば、ブルーオーシャンがあるかもしれないという、このへそ曲がり会社は、長い間小売の亜流としか見られていなかったが、いまや、老舗ユニーまでが資本提携し、その手法を導入する時代になった。
地域金融機関の話の流れの中で、突然ドン・キホーテの話が出てきたので、違和感を持った方も多いかもしれないが、個人的には地域金融機関の今後と、GMSのたどってきた衰退の経緯が重なる。GMSもさまざまな改善策を実施したが、さすがにドン・キホーテのように徹底したGMSの逆張りというわけにはいかなかった。結果、ドン・キホーテはGMSマーケットの代替者として認識される存在となり、今のところGMSに有効な反撃手段は見つかっていない。
地域金融機関もいっそのこと、自らの逆張りぐらいやってみるべきかもしれない。ただ、自己否定は現実的ではないのであれば、せめて反面教師として、スルガ銀行の逆張りをお勧めしたい。
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