スルガ銀行の不祥事を地銀は笑えない:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
第三者委員会の公表によってスルガ銀行の常軌を逸する実態が明らかになった。この一連の事件については開いた口がふさがらない。しかし一方で、他の地銀はこのスルガ銀行の不祥事を笑っていられるのだろうか。
地方金融機関の切迫感
今回の事件のあまりのひどさに憤ってしまい、だらだらと金融機関の組織に対する批判を書いてしまったが、事件はスルガ銀行の愚かさだけが原因ではない。
なぜスルガがここまでしてローンを伸ばさなければならなかったのかといえば、普通にやっていたら存続できない恐怖感があったからだろう。地方経済の停滞、金融の東京一極集中の進行などの構造的な市場縮小に、金融緩和による利ザヤの低下などの原因が重なり、地域金融機関の収益環境は悪化している。その中で、金融当局が進める地方金融機関の再編の椅子取りゲームに勝たねばならない切迫感があった。ただ、これは地域金融機関が共通して抱える課題であり、今後も長きにわたり悩まされ続けるだろう。
就活人気ランキングでメガバンクの凋落(ちょうらく)をよく聞くが、地元に帰りたい学生にとって、地域金融機関は今でも手堅い人気があるらしい。地方において、地域金融機関はステータスもある、安定的な就職先だからだろう。
しかしながら、地域金融機関はこれまでのような、地元に帰って安定した生活を送りたいという地元志向のエリートには向かない仕事になってきている。人口減少、高齢化が先行して進み、縮小する地方経済の下、地域金融機関は生き残りをかけて自らのビジネスモデルを変えていく必要がある。
本来であれば、合従連衡して人材の厚みを増し、環境変化や技術革新に対応した組織を再構築して、地方創生のけん引役となることを目指さねば生き残りは難しい。にもかかわらず、自ら変わることを怠って実態的には安易に審査基準を引き下げて表面を繕ったというのが、今回のスルガ銀行事件の本質だとすれば、他の金融機関にとっても対岸の火事ではない。変化する環境に本気で向き合わず、過去の延長線上で小手先の対応を行うものは存続できないという、ある意味、先行事例になったとも言える。
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