スルガ銀行の不祥事を地銀は笑えない:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
第三者委員会の公表によってスルガ銀行の常軌を逸する実態が明らかになった。この一連の事件については開いた口がふさがらない。しかし一方で、他の地銀はこのスルガ銀行の不祥事を笑っていられるのだろうか。
金融機関特有の組織ルール
今回、スルガ銀行という金融機関で起こった事件も、本質的には同根の問題だろう。一部の幹部が指揮した個人ローンによる業容拡大は、不適切な案件創出でしか達成できない荒唐無稽な作戦だった。
多分、これは幹部の市場分析の拙劣さが発端で、パワハラ専務は、適正な案件がどの程度あるかも分かっていなかったのではないか。パワハラをかければ最終的には実績が上がったような結果となるため、経営陣もほとんどの案件が不適切な処理により組成されているとまでは思っていなかったのだろう。ただ、さすがに上場企業の役員クラスが違法行為で作った業績が、どのような結果を引き起こすかくらいは分かるはずだ。この想像を超えていれば、その役員は単なる詐欺師だろう。
このような拙劣な経営の下、不適切処理に手を染めていった関係行員には、厳しい処分が下ることは当たり前だが、何ともやるせない気分になる。こんなブラック企業に勤めていなければ、ほとんどの人はこんな違法行為をすることなく職業人生を送ることができたろうに。
こうしたことが起こる遠因だと思われる金融機関の体質について、別のエピソードをご紹介したい。
金融機関では貸出を実行すると、一定の割合で貸し倒れが発生するが、そうなれば貸出にゴーサインを出した当事者は何らかの責めを負うのが普通の感覚だと思う。しかし、現実の金融機関では、個別の貸出の貸し倒れについて、よっぽど悪質な事件は除くが、後からその結果を追及されることはほとんどない。
金融機関では定期的な人事異動があるため、数年するとほとんどが別の部署に異動する。貸し倒れが発生したとしても、貸した当事者ではなく、後任者がその後始末をする場合がほとんどだ。そのため、金融機関の貸出担当職員は自分が貸した案件のその後、貸した会社の行く末については、ほとんど知ることはないし、多くの人は関心を持っていない。その後がどうなろうと、自分のサラリーマンとしての処遇には何ら影響がないからである。
このような組織では、最終的に貸し倒れが、自分の在任中に起こらないということに関心が集中し、“やったもん勝ち”が横行するのは避けられない。
誤解を避けるために説明するが、金融機関においては、判断の検証による個人の責任追及は行わないが、貸出審査の手順、書類がルール通りに実施、整備されているかといった手続き面での管理は厳しく行われている。ただし、これは決められた貸出決定手続きを経た案件であれば、貸し倒れたとしても個人の責任を問わないということである。
手続き通りに関係者のハンコを集めた書類が記録として残れば、判断として責任を問われない。だからスルガ銀行も改ざんしたエビデンスがたくさん残されていた。これでは、結果責任が問われないのと大して変わらない。貸出というのは貸した金が返ってきて初めて、金利という収入が利益になるはずのものだ。元本が毀損(きそん)すれば、差し引きで損失にしかならない。そこまで確認して本当に実績は確定するのに、そこを見ないで「実績」だとするのはおかしい。手続き順守など最低限のことなのだ。
筆者が金融機関に勤務していたころ、自分がお金を貸し出した企業が、その後どうなったかを検証して、自分の仮説の精度を確認することを自主的にやっていた。組織として事後検証する仕組みがないため、貸した企業のその後を他部署から確認するのにいつも苦労していた。ちなみに、手前みそながら一人前になって以降、自ら調査立案した案件で貸し倒れはなかった。ただ、そこを評価してくれる仕組みは存在していなかった。
金融機関では個人として貸出責任を問われないため、高い金利で多くの額を貸した者が実績を上げることができ、サラリーマンとしての生存競争に勝ち抜く可能性が高くなる。このルールの下、勝ち残った者が管理職、役員、経営者になるとすれば、中には冒頭のパワハラ専務のような人が、組織を動かす位置に上り詰めてしまうこともあるだろう。
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