自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。
クルマの自動運転には2つのカテゴリーがある。一つはマイカー、もう一つはシェアカーやバスなどの公共交通だ。小田急電鉄は9月6〜16日、神奈川県藤沢市の江の島で、自動運転による路線バスの実証実験を行った。9月11〜16日は公募による一般モニター試乗も実施された。いまのところトラブルの報道はないから、無事に終わったのだろう。しかし、ネット上で一般モニターの感想を探すと、極めて少ない。おそらく、期待したような乗りものではなかったからではないか。
私は9月6日の報道公開日に試乗した。そして正直、がっかりした。原因は自動運転バスの出来が悪いとか、運用の段取りが悪いとかではない。きっと私の期待が大きすぎたせいだ。公道を混合交通で走らせる自動運転である。難易度は高い。どんなささいな事故もあってはいけない。トラブルがあれば、自動運転そのものが否定されかねない。ならば安全策をとる。運転手を乗せて手動運転に切り替えながら走るのだ。
ちっとも「自動」ではなかった
自動運転の様子を振り返ると、まず出発点の小田急ヨットクラブ駐車場から公道に出るまでは運転手が操作する。本来の路線バスの走行とは異なるし、道路脇の歩道を越える必要がある。安全を考えれば納得だ。しかし、公道を走り始めると、路上駐車の車両を避けられない。自動停止するから、運転手がハンドルを握り、前後左右を確認して対向車線にはみ出して、駐車車両の脇を過ぎて元の道に戻る。
江の島は観光地だし、路上駐車に出くわす頻度は高い。駐車車両があるたびに手動運転の連続だ。この日だけではないかもしれないけれど、警察車両が巡回して駐車車両に移動を命じていた。警備会社も駐車車両に対して移動をお願いしている。それでも路上駐車は多い。9月9〜16日に開催されたセーリングワールドカップシリーズ江の島大会の準備のためのトラックもしばしば見られた。一般モニターの乗車日はワールドカップの開催日に合わせたというから皮肉な結果だ。
駐車車両をやり過ごし、自動運転で短い距離を走って横断歩道の手前で停車。これは正しく動作している。しかし、発車は手動運転だ。観光地の横断歩道は人が途切れにくいし、遠方から走ってきて立ち止まらない横断者もいる。このときは厄介なことに、横断歩道手前に立ち尽くし、スマホを眺めている人がいた。この人は立っているだけか、不意に横断するか。自動運転バスはその判断ができないようだ。
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