自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。
鉄道ではこんな話もある。朝日新聞8月30日付の記事「畑に急病人『救助に向かいます』 快速列車止めた運転士」によると、JR東日本の米坂線のワンマン運転の運転士が、畑で倒れている男性を発見し、列車を停止して救助した。めったにないことだけど、自動運転の列車で同じことができるだろうか。道端で倒れている人が居ても、進路の外であれば、自動運転バスは通過してしまうだろう。
一方、ネットではバス運転手の悲鳴に似た声も見つかる。朝夕に乗客が集中する路線では、日中の閑散時間帯も待機を命じられる。この時間は勤務扱いで、外出や一時帰宅もできない。あるいは、待機を命じられてもその時間帯は就業と見なされず、給与の算定外になるといった話もあった。バスの運転手不足は、人口減少だけではなく、待遇にも理由がありそうだ。人材不足だから自動運転、ではなく、なぜ人材が不足しているのか、その研究と対策のほうが重要な気がする。
公道を走るバスは、普段私がテーマとしている鉄道とは異なる分野である。無知であることも認めなくてはいけない。しかし、鉄道とバスの自動運転を比較すると、バスは実用には程遠い。将来、自動運転バスが走る街と、運転手がバスを走らせる街があったとして、どちらを選ぶか。私は今まで通り、生身の運転手がバスを走らせる街に住み、乗降時に「お願いします」「ありがとう」とあいさつを交わしたい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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