迫る“廃業の危機”を救ったのは……「後継者がいない」中小企業の物語:個人も“会社を買う”チャンス(4/4 ページ)
「後継者がいない」問題を抱える企業は多い。“大廃業時代”が迫る中、注目されているのがM&Aだ。企業だけでなく、個人が会社を引き継ぐケースも増えている。実際にM&Aを経験した企業の事例から、有用性や社会的意義を読み解く。
個人がM&Aの担い手になる時代
「清建のケースでは、100社以上に打診しました」
そう明かすのは、株式会社経営承継支援の笹川敏幸社長。双方にとって最適な相手を探すのは簡単なことではない。同社は、全国に設置されている「事業引継ぎ支援センター」や会計事務所などのネットワークを活用し、可能な限り最適な企業を探す。今回のケースの湯本内装は既存の顧客企業ではなかったが、手紙を書いてアプローチした。
2015年に設立した同社の特長は、規模が小さい会社のM&Aも支援する点だ。笹川社長は「小さい会社こそ、相手先を探すのが大変。しかし、支援会社にとっては、M&Aの規模が小さいと手数料収入が少なくなる。中小企業のM&Aの需要はあるのに、対応できる支援会社が少ないのです。私たちは、残すべき事業だと思ったら、1社でも多く支援します」と話す。
同社のコンサルタント1人当たりの年間成約件数は4.6件。業界平均の1.6件を大きく上回る。1件当たりの手数料が少なくても、件数が多いため、業績は伸びているという。
今、相談や成約の件数はどんどん増えている。「20年前は長男が後を継ぐケースが9割でしたが、今は半分以下。子どもの職業選択を尊重し、“継がせるのは不幸”と考える経営者も多い。でも、特に地方には、人々の生活のためにつぶしてはいけない事業もあります。M&Aの社会的意義は大きくなっています」(笹川社長)
事業を引き継ぐ担い手は会社だけではない。今、個人が会社を買って、経営の担い手になるケースも増えているという。
「例えば、独立を目指していた薬剤師さんの支援実績がありますよ」と笹川社長は説明する。地域の人が使う、小さな薬局。後継者はいないが、地元の人の生活を支えており、なくなってしまうと困る。規模が小さいため、大手チェーンに買ってもらうこともできない。そんな店と、スキルを持つ個人が結び付いた。
「実績がある事業を引き継ぐことは、一から起業するよりもリスクが低く、融資も受けやすい。経験を生かして新しいことをやりたい、地域のために事業をやりたいと思っている人にとっては、チャンスかもしれません」(笹川社長)
同社は今後、個人への情報提供やセミナー開催などにも積極的に取り組んでいくという。さまざまなスキルや経験を持つビジネスパーソンが「大廃業時代」に歯止めをかけるきっかけになるかもしれない。
関連記事
- 6畳弱の狭い物件に、住みたい人が殺到している理由
6畳弱の狭い物件が人気を集めていることをご存じだろうか。物件名は「QUQURI(ククリ)」。運営をしているピリタスの社長に、その理由を聞いたところ……。 - 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。 - 日本人の働き方が変わらない、本当の原因は「大縄跳び競走」にある
先週、働き方改革法案が成立した。といっても、サラリーマンの多くは「どうせ変わらないでしょ」と思っているのでは。日本人の働き方はどのようにすれば変わるのか。筆者の窪田氏は法整備よりも、小学校で行われている「大縄跳び競走の中止」を訴えている。どういう意味かというと……。 - なぜ「スーツみたいな作業着」をつくって、しかも売れているのか
スーツのような作業着「WORK WEAR SUIT(ワークウェアスーツ)」が売れている。製造しているのはアパレルメーカーでもなく、作業着メーカーでもない。水道工事などを行っている会社がつくったわけだが、なぜこのような商品を開発したのか。その狙いを聞いたところ……。 - ココイチが急速に“マンガ喫茶化”しているワケ
カレー専門店の圧倒的シェアを誇り、独走を続けるCoCo壱番屋(ココイチ)。近年、そんなココイチが急速に“マンガ喫茶化”しているのをご存じだろうか……。 - 「はなまるうどん」は「吉野家」を超えるかもしれない
「はなまるうどん」の業績が絶好調だ。今回は「丸亀製麺」の787店に次いで、うどん業界第2位につける「はなまるうどん」が2年連続の赤字という苦境を克服して、再び成長軌道に乗った理由を解説する。 - 「ウィルキンソン」がバカ売れしている本当の理由
「ウィルキンソン」が売れている。躍進のきっかけはハイボールブーム。割り材としての需要が増えたことでブランド認知が上がったそうだが、大事な要素が欠けているのではないだろうか。どういうことかというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.