明らかにされたマツダのEV計画:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
ここ数年マツダは内燃機関の重要性を訴えており、SKYACTIV-Xを筆頭とする技術革新を進めてきた。中にはそれをして「マツダはEVに否定的」と捉える層もあるが、実はそうではない。EVの必要性や、今後EVが増えていくということを、マツダは一切否定をしていないのだ。
2種類のEV計画とロータリー
さて、ここで一度話が変わる。マツダの電動化計画は現在2系統走っている。1つはマツダ独自の電動化計画。もう1つはトヨタやデンソーとスタートし、いまやオールジャパンと言えるほど多くの社が参画する新事業会社EV.C.A. Spirit(EVCAS)社のプロジェクトだ。EVCASでは、主にバッテリーとインバーター、モーターの間の規格標準化を進めており、このルールに則れば、いざ製品化の時には規格に合うどの部品でも組み合わせて使える形になる。
ちょうどUSBを想像してもらえば良い。いちいちゼロから組み合わせを設計したり、汎用品をカスタムせずとも、規格に合致した製品であればより高い性能を安定的に引き出すことができるオープン規格である。つまりこの枠組みで作られるのは規格のみであり、個別の製品は個社が規格に準拠した形で設計される。枠組みの全社で金太郎飴のように同じ製品をブランド違いで売るという意味ではない。
今回の発表で、このEVCASの技術開発完了は2020年と発表された。個社の製品開発はそこからスタートする。そして、もう1つ、それに先行してマツダ独自の電動化プログラムが発表された。一言で言えばロータリーのレンジエクステンダーを軸としたコンポーネンツ型のハイブリッドシステムである。奇しくもこの独自電動車両の発売スケジュールもまた2020年となっている。
骨子となるのはロータリーエンジンを使ったレンジエクステンダーである。レンジエクステンダーとは平たく言えばエンジン発電機のことだ。このシステムはすでに先代デミオベースでプロトタイプが作られたことがあり、1ローターのロータリーエンジンを横倒しに水平に搭載することによって、従来のスペアタイヤ相当のスペースに発電機を収めるていた。恐らくは考え得る最小の発電ユニットである。
しかし今回のユニットはそのレイアウトと異なる。ロータリーエンジンは、エンジンルームに搭載される形になる。なぜそのようなシステムになったかははっきりしない。筆者がマツダに「これはパラレルハイブリッドとして運用するバリエーションを考慮したものか?」と尋ねてみたところ、明確に否定された。「システムはシリーズ型となる」とのこと。
ひとまず分かっているメリットを挙げれば、ロータリーはコンパクトなだけでなく、部品点数が少なく、軽量、かつ低振動。発電用であればこれを定格運転(一定速運転)で使うので、従来弱点とされて来た排ガスや燃費の不利も表面化しにくい。以前マツダのエンジン設計のボスである人見光夫常務に聞いた話では、レンジエクステンダーに最も重要なのはパッケージ効率。発電ユニットは常時動かすわけではないし、定格で回すだけなら排ガスも燃費も何とでもなるとの説明だった。
面白いのはここからだ。このユニットを中核に、レンジエクステンダー付きのBEV、プラグインハイブリッド、シリーズハイブリッドの3種のクルマを作り分ける。なかなか整然とは区別しにくいので、定義に反する部分もあるのを承知で、理解しやすさを優先して概念を書き出せば以下のようになる。レンジエクステンダー付きのBEVは言わば電池切れ対策として発電機を積むEV、プラグインハイブリッドは容量の大きいバッテリーを積んでEV走行距離を増やしたハイブリッド、シリーズハイブリッドは、常時発電機を稼働させながら走行するEVとなる。
ロータリーを前提にすれば、レンジエクステンダー付きのBEV(つまり緊急時以外はバッテリー駆動)、シリーズハイブリッド(常にエンジンで発電)の2種類をベースにしながら、シリーズハイブリッドのバッテリー容量を増やしたプラグインハイブリッドという構成になるはずだ。インフラが整っていない仕向地順で、シリーズ→プラグイン→レンジエクステンダーとなるだろう。恐らくバッテリーの容量に応じて車両価格が高くなるはずなので、価格の序列も同じように並ぶはずだ。
ロータリーエンジンで駆動されるジェネレータの能力と燃料タンクの容量を順列組み合わせ的に変えることでその全てが同じリソースから作り出せる。さらに言えばエンジンとしては極めて雑食性の高いロータリーなら、ガソリンだけでなく、CNGやLPG、水素と言った多様な燃料に対応することが可能だ。マツダはこれをマルチxEVと呼ぶ。
なぜそんなことをするかと言えば、世界が一様ではないからだ。地域によって、あるいは今後のインフラの発展によって、最適解は異なる。そしてそれは時々刻々と変わっていく。それらに対して個別にソリューションを用意するのは簡単なことではないし、そんなことをしたら価格も高騰するだろう。だからロータリーを核にした汎用性の高いシステムを作り、地域と時代に安定して貢献しようとマツダは考えた。
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