新しく就任した大臣が「失言」を繰り返す、3つの理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
内閣改造の風物詩ともいうべき、「大臣の首を取りましょうキャンペーン」が本格化している。それにしても、なぜ新たに就任した大臣は「失言」を繰り返すのか。筆者の窪田氏の分析によると……。
永田町の互助システム
なぜ記者が、青春ドラマの熱血教師のように「自分の言葉で話せ」などとしつこく迫っているのかというと、日本国の防衛大臣が自身の「歴史認識」をペラペタと語ることは、どう転んでもトップニュースは間違いないからだ。
少しでも中国や韓国、あるいは朝日、毎日、どこかの歴史学者の皆さんの歴史認識とトンマナが違えば、「軍国主義だ!」「歴史修正主義だ!」という「秋のリベラル例大祭」がおっ始まる。また、そのような人々に「忖度」をして侵略でしたと認めたら、自民党支持者やネトウヨの皆さんから袋叩きにされる。つまり、この質問は、どう答えても「地獄」しかない「大臣ホイホイ」ともいうトラップなのだ。
岩屋氏はどうにかこの罠をかわしたので、大事にならなかったが、もしも記者が求めるように「自分の言葉」で、侵略戦争への考えを述べていたら今ごろ、柴山文科相のようにボコボコに叩かれていたはずだ。いや、立場と発言の中身からすれば、中国や韓国からも猛反発がきて、国際問題に発展していたかもしれない。
「オレ的にはこう考えてますね」「ぶっちゃけ、私はこう思いますよ」と正々堂々と持論を展開するのは男らしいが、大臣としては、格好の政府批判の材料である。いろいろな意見はあるだろうが、大臣としては極めて正しい、「誘導質問のさばき方」なのだ。
ただ、大臣になった人の多くは、このようなテクニックを身に付けていない。学んでこなかったことももちろんあるが、「LGBTには生産性がない」などと述べた杉田水脈氏がこれまで政治家がやってこれたように、選挙という審判さえクリアできれば、政治家というのは多少の失言、問題発言を許される人たちだからだ。
このような構造的な問題がある限り、安倍政権でも、そのまた次の政権でも、大臣の失言や問題発言は繰り返されるはずだ。
ただ、政治家本人たちからすればそれでもいいのかもしれない。
先ほども述べたように「大臣の椅子」は、政治家ならば誰もが欲しがる「最高のご褒美」だ。大臣がコロコロ変わるのは国民にとっては不幸なことこの上ないが、政治家にとってはご褒美をもらうチャンスが増えてありがたい。それは周囲で甘い蜜を吸う人も同じだ。
そう考ていくと、大臣のクビを狙う「失言祭り」は、政治家、マスコミ、官僚など永田町ムラで細く長く生きていく「みんな」が無意識でつくり出した、互助システムなのかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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