30歳で楽天を辞めた元副社長が私財を投じて学校を作る理由:本城慎之介、軽井沢風越学園創設への道【前編】(1/5 ページ)
かつて三木谷浩史とともに楽天を創業し、副社長を務めた本城慎之介。彼は2002年11月に30歳で楽天副社長を退社して以降、教育畑に転身した。現在は長野・軽井沢の地で幼稚園・小・中学校の混在校である「軽井沢風越学園」の開校を目指している。彼が成し遂げようとしていることの本質を探った。
東京駅から北陸新幹線に乗り1時間13分。さらに軽井沢駅からクルマで約20分走った先。生い茂る木々に囲まれた木造の小屋の中に、ストーブの脇でPCを開き、忙しなくキーを叩いている男がいた。かつて三木谷浩史とともに楽天を創業し、副社長を務めた本城慎之介、46歳である。
2002年11月に楽天副社長を退社して以降、教育畑に転身。05年には当時全国最年少の32歳で公立の横浜市立東山田中学校校長に就いた。早すぎる副社長退任から約16年。本城はこの森の中で、幼稚園・小・中学校の混在校である「軽井沢風越学園」の開校を目指し、日夜、準備に追われている。
「ここまで一直線では全然なくて、本当に迷いながらというか、何をしていいか分からないという状態が結構、長く続きまして。東京から軽井沢に越して来て、幼稚園で働いたり、野外での小学生向けの活動をしたりする中で、幼小中で子どもたちが混ざり合いながら学び、遊んでいる姿が見えてきて、ようやく風越学園にたどり着いたというのが正直なところです」
16年ぶりに会った本城はかつての楽天時代と変わらぬ穏やかな物腰で、開口一番、こう話した。行政の許認可手続きがうまく進めば、オリンピックイヤーの20年、本城の16年の集大成と言うべき風越学園が軽井沢の森に開校する。
計画している予算数十億円のほとんどは本城が準備する。楽天の創業者利得で巨額の私財を築いた男は、なぜ若くして教育の道へ転身したのか。なぜ私財の大半を学校運営に投じるのか。なぜ軽井沢で幼小中一貫校なのか――。
本城という男が成し遂げようとしていることの本質を探るべく、軽井沢の森の中で3時間のロングインタビューに臨んだ。
マネジメントや人材育成「下手くそだった」
本城は、函館ラ・サール高等学校卒業後、1991年、慶應義塾大学総合政策学部に入学。湘南藤沢キャンパス(SFC)の2期生となり、SFC独自の学園祭である「秋祭」の創設などに携わる。が、このころは特に教育への興味関心はなく、SFCの大学院に進んだ後、就職活動を通じて、当時、日本興業銀行を辞めて間もない三木谷と出会うことでベンチャーの道へと進んでいく。
「世の中を変えていこう」。そう三木谷から誘われ、1996年、楽天の前身であるエム・ディー・エムの創業時から参画。SFC出身ということもあり、ネットワークやシステム開発を担当した本城は、「楽天市場」のプラットフォーム構築で八面六臂の活躍を見せ、99年、取締役副社長となる。
その後の楽天のサクセスストーリーは周知のところ。転機が訪れたのは、2002年、ちょうど本城が30歳の誕生日を迎える前だった。
最初は三木谷と2人だけだった会社は、2000年にジャスダックへ上場してからさらに勢いを増し、02年度には売上高が100億円、連結子会社が17社という規模に成長していた。気付けば、連結で500人という組織を束ねるナンバー2になっていた本城は、ある戸惑いを抱いていたと吐露する。
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