「アパレル廃棄問題」から近未来の社会シフトが見えてくる:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
アパレルの売れ残り商品の廃棄処分に批判が集まっているという。衣料品の市場規模が縮小しているのに、供給量自体は増えているのが一因だ。なぜこんな事態に陥るのかといえば、各企業が過当競争を続けているということに尽きる。
不可能が技術革新で可能に
ただ、そんな状況は変わりつつある。
人工知能(AI)の進化やビッグデータの蓄積によって、これまで不可能だった消費者の行動分析が精緻にできるようになりつつある。非現金決済の拡大やスマホ、タブレットの普及が進み、消費行動の個人別認識が可能になってきた。ポイントカード、クレジットカード、電子マネー、スマホアプリ、ネット通販などを利用して買い物をすれば、個人の購買履歴はデータで企業に蓄積されていく。こうして取得される個人認識(ID)と同時に取得されるPOS等による商品、サービスなどの消費の対象物が認識できれば、誰がどんなものをいつ買った、というデータが残る時代になってきた。こうしたデータもこれまではためているだけだったが、AIの普及はビッグデータの分析を可能としつつある。技術革新により、これまでできなかった需要予測も技術的には可能になった。
さらにいえば、ITを通じて消費者と直接つながり、コストをかけずに個別受注生産するというやり方も可能性が見えてきた。ファーストリテイリングは、ユニクロアプリを取得させることに注力している。アプリを通じて消費者と直接つながることを目指し、情報製造小売業となって、「無駄なものをつくらない、無駄なものを運ばない、無駄なものを売らない」という方向性を今後のあり方として表明している。例えば、2990円でセミオーダーシャツを、個別にオンライン注文できるサービスも既に始まっている。こうした消費者への個別対応を低価格で実現していくといった取り組みを今後拡大できれば、確かに売れ残りは劇的に削減できるだろう。
ファストリは、2018年9月にGoogleとIT分野での協業も発表している。ニュースリリースには「お客様の声や行動情報・外部情報に、実績データを加えた、ビッグデータを活用することで、お客様をより深く理解し、お客様が求めているものだけを作る仕組みの構築」と明確にうたっている。消費者との双方向の接点を強化して必要なものだけを作ったり、消費者ビッグデータの分析によって、需要予測を精緻化したりするという取り組みが、これからの最重要課題だと認識していることが伝わってくる。
自分さえも実体験のない古い話だが、高度成長期以前の日本では、洋服は家庭内で洋裁をして生地から作るものだった。1960年代には、家にミシンがあったし、当時は洋裁学校に行くのが花嫁修行の必修科目だったと聞いた。当然ながらこうした時代には、個別に作っているので大量廃棄などが問題になることもない。
1960年代後半ごろから急速に既製服が普及して、現在のような大量生産・大量廃棄の時代に変わったことで、売れ残りや廃棄の問題は深刻化してきた。
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