ガンダムの「姫」、セイラ・マスはなぜ投資で成功できたのか?:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(2/5 ページ)
「機動戦士ガンダム」に登場するセイラ・マスは、かつて医学の道を目指していたが、後に投資で活躍していることが明らかになる。彼女はなぜ投資で成功できたのだろうか? さまざまな視点から分析しよう。
あの金塊は一体……?
投資には元手が必要である。セイラは一年戦争の最中、兄であるシャアから軍を抜けるよう促す手紙とともにスーツケースにぎっしりと金塊を贈られている(「機動戦士ガンダム」第38話再会、シャアとセイラ)。もっとも、この金塊は、地球連邦軍に接収された可能性が高い。一年戦争の最終決戦でホワイトベースは航行不能となったが、脱出艇に金塊を載せる余裕があったとは考えにくい。セイラの希望通り、各自に分配されていたとしても、地球連邦の他の艦に救助された後の持ち物検査等で、金塊を私物であるとしらを切るのは難しい。地球連邦軍の物資として没収されただろう。
そもそも、シャアは金塊がセイラの手に渡ると本当に考えていたのだろうか。セイラが他のクルーより先にスーツケースを手に入れたとしても、作戦行動中の軍艦から自己都合で退艦できるわけはない。確率で言えば、金塊が入ったスーツケースがセイラより先に他のクルーに発見される可能性の方が極めて高い。シャアはホワイトベースクルーがスーツケースを発見することを見越した上で、手紙のついたスーツケースを贈ったのであろう。
クルーにスーツケースが発見されることで、セイラはスパイの疑いからホワイトベースにはいられなくなるが、ことが軍事法廷などで公になると、金塊のことも明るみに出るため、ホワイトベースのクルーも得るところがない。つまり、セイラがスパイ容疑で軍事裁判にかけられることのないよう、負傷なりの名誉除隊扱いでホワイトベースから退艦させる見返りとして、クルーを黙らせるための賄賂として金塊を贈ったと考えた方が合理的だ。
セイラがスパイ容疑で軍事法廷にかけられ、かつ、ホワイトベースクルーが金塊を着服するシナリオの場合、軍事法廷でのセイラの証言でホワイトベースクルーの立場が危うくなる。スパイ容疑のあるクルーを独房に置いたまま、独立遊撃部隊として活動することは士気にかかわる。
セイラを軍事法廷にかけ、かつ、金塊を地球連邦に正直に申請するほど、地球連邦軍人が清廉潔白だとは考え難い。中将の地位にいたエルランでさえ、スパイ行為を働くほど腐敗していたのが地球連邦軍である。
ゲーム理論のような合理性が支配する世界であれば、セイラは本人の希望によらず退艦することになったのだろうが、信頼といった感情やホワイトベースのイレギュラーさをシャアは読み違えたのだろう。
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