飲食店「無断キャンセル」の損害額は年間2000億円 どうすれば防げる?:経産省・業界団体が指針発表
飲食店における無断キャンセルの被害額は年間2000億円であることが経済産業省と業界団の調査で判明。両者はこれを受けて防止策を公表した。明確な基準で算定したキャンセル料の請求、IT活用、事前決済の導入などがカギになるという。
経済産業省と業界団体はこのほど、飲食店における無断キャンセルの現状と対策をまとめたレポートを発表した。顧客が連絡なく来店しないケースがしばしば発生し、飲食店の食材費・人件費のロスや機会損失につながっていることを受けて公表したもので、損害賠償を請求する指針や防止策などが記されている。
業界団体は「サービス産業の高付加価値化に向けた外部環境整備等に関する有識者勉強会」。一般社団法人日本フードサービス協会、飲食店の予約サービスを手掛けるトレタ(東京都品川区)、慶應義塾大学の鹿野菜穂子教授らが名を連ねる。
無断キャンセルの損害額は年間2000億円
同レポートによると、飲食店の予約に占める無断キャンセルの割合は0.9%で、業界全体に与える損害額は年間約2000億円。1〜2日前までのキャンセルを含めると計6%で、損害額の合計は年間1.6兆円に及ぶという。
同レポートはこうした現状に対し「キャンセルによって顧客側が飲食店側に対して何らかの損害を与えたのであれば、債務不履行や不法行為に該当する」と指摘。「飲食店側は顧客側に対して損害賠償を請求することが可能であると考えられる」としている。
損害賠償の対象は、コース予約の場合は基本的に料理の全額を請求できるが、原材料などを別の顧客に転用できる可能性もあるため、「消費者契約法などの関連法にのっとり、各店舗の収益構造などの個別事情を踏まえた上で損害額を算定することが必要」と提言している。
席だけ予約した場合は「損害の合計を算定することはきわめて難しい」とし、「客観的基準により算定した平均客単価の何割か(平均客単価から転用可能な原材料費・人件費等を除いた額)が損害賠償額の一つの目安となる」としている。
キャンセル料の算定方法を明示すべき
ただ、来店しなかった顧客に非があるものの、根拠もなく高額なキャンセル料を設定することが問題であることは自明だとし、「店舗は予約客に対し、平均客単価や損害賠償額の算定方法を事前に示す必要がある。また、損害賠償額の算定方法をしっかりと説明できるように準備すべきだ」と説明している。
IT活用や事前決済も手 消費者も連絡する努力を
また、損害賠償以外で無断キャンセルを未然に防ぐための方策としては、(1)IT予約システムの導入とSMS(ショートメッセージサービス)によるリマインド配信、(2)顧客がキャンセル連絡をしやすい仕組みの整備、(3)事前決済、預かり金(デポジット)、クレジットカードの事前登録――などの実施が効果的だという。
同レポートは消費者に対しても、「急用や体調不良などでキャンセルせざるを得ない場面があるのは事実だが、飲食店に行けないことが分かった時点で連絡すべきだ」と提言。「ただ、法外な額のキャンセル料を請求された場合は、全国の消費者生活相談窓口に相談すべき」とし、キャンセルを巡る取引の健全化を訴えている。
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