自らをアップデートする理系の生き方:池田直渡「週刊モータージャーナル」【番外編】(2/4 ページ)
日本独自の問題に、終身雇用の融通の利かなさがある。例えばエンジニアの場合、新卒から30年以上も1つのジャンルに縛り付けられることには問題がありすぎる。それを解決できる会社があった。
生涯一エンジニアという生き方
エンジニアの長い人生の中で、自分のやりたいことと世の中の技術の興亡、生活の安定など、さまざまなことを視野に入れて、もう少しバランスの取れた働き方はないのだろうかと考えたとき、思い出したのが今回取材した株式会社ジェイテックだった。
ジェイテックは比較的自動車系のエンジニア派遣に強い会社だが、自動車専業ではない。さまざまな製造業にエンジニアを派遣しており、特に最近はソフトウエアエンジニアが増えているという。
ジェイテック 技術本部 副本部長の岩崎秀樹氏は昔からの知り合いだ。本人が目の覚めるようなシステムエンジニアであり、また超一流のプロジェクトマネジャーであったことを、筆者は彼に仕事を発注した側として知っている。その彼が転職し、現場を離れてマネジメントに上がったことを耳にして、とても残念に思った。ただ、それで何をやるかを聞いた時に非常に興味深い企業があるものだと記憶に残っていたのだ。
ジェイテックは自らの仕事を「技術商社」または「知財リース」と位置付ける。ありていに言えばエンジニア専門の派遣会社なのだが、エンジニアの身分がジェイテックの正社員というところが面白い。
ジェイテックの社員として、多くの一流メーカーに派遣され、そこでエンジニアとして働く。仮に何らかの理由で、派遣先を辞めたとしても、身分がジェイテックの社員であることに変わりはない。だから、仕事がない期間も給料は継続して出る。そしてまた新たな派遣先を得て、次の一流メーカーでエンジニアとして働くことができるのだ。
ジェイテック側では派遣終了後も給料を払っている以上、「なかなか紹介できる次の仕事がないんです」というわけにはいかない。本人の能力が生かせる働き先を一生懸命探すのだ。
すでに当事者である人には明らかなことだが、メーカーに就職してエンジニアになるということは、企業の人事権に身を任せることであり、会社の都合でいつ、どこの、どういう部署に配属されるかは会社がほぼ全て握っている。もちろん交渉の余地がないわけではないが、そのカードが自由に使えるものか、有名無実なものかは、入社してみるまで分からないのが現実だ。
企業で順調にステップを上がり、エンジニアから管理職へ、さらに経営メンバーに上がっていく能力と志向のある人ならば、そういう環境も良いかもしれないが、エンジニアの中には生涯現役で現場仕事をしたい人も多い。そういう人たちはキャリアの後半で、なかなか浮かばれないことになりがちだ。
であれば、派遣という方法で、自分のやりたいことができる場所を常に自分が指定できる権利を確保する選択肢もあるではないか。従来、それはイコールで身分の不安定を意味していたが、正社員でありながら派遣されるというジェイテックのやり方ならば、やりたい仕事を選びながら、身分を安定させることが可能になる。岩崎氏からそれを聞いた時、筆者は日本の労働の柔軟性改革に対する1つの回答だと思ったのである。
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