ジムニー 評判通りの楽しさ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
スズキのジムニーは存在そのものが人を楽しくするクルマだ。その新型を1週間試乗してみた。実は走り出してすぐの印象はそう良くもなかったのだが……
飲み物を調達するために立ち寄ったコンビニで近づいて来た作業着姿のおじさんは「最高だよなぁ。こういうおもちゃがあったら楽しいよな。これ今いくらするの?」とニコニコしていた。どうやら欲しいらしい。ジムニーは存在そのものが人を楽しくするクルマである。
第一印象はいまひとつ
さて、新型ジムニーは走ってみてどうだったか? などということもすでに必要ないかもしれない。筆者がこれまでネットで見掛けた記事はおおむね絶賛の嵐で、当のスズキの広報曰く「いや、お陰さまで皆さんに褒めていただきまして、池田さんにはぜひ厳しいご指摘などいただいて、開発に伝えたいと思います」。
いや、すごい。小憎らしいほどの自信だが、実際に1週間の試乗結果からいうと、大した苦言もできない。評判通りの良いクルマである。2018年を代表するクルマどころか「2010年代全体でナンバーワンだ」と言う人がいても驚かない。
さて、時計の針を試乗開始の瞬間まで巻き戻そう。実は走り出してすぐの印象はそうでもなかった。横方向を中心に補強を施されたラダーフレームは、ねじり剛性を1.5倍まで高めているそうで、それは走り出してすぐに分かった。路面のうねりをトレースして、ボディが遅滞なく揺すられる。しなったり、そのせいで後ろが遅れて動く様子が微塵もない。「硬くなったなぁ」という正直な感想は必ずしもポジティブな面ばかりではなかった。ポルシェ911でもあるまいし、こんなに胃袋で突き上げを感じるのはどうも感心しない。
ところが、それだけでもない。印象としてはバネが柔らかく、それに対してダンパーが硬い感じを受けた。長い周期の揺れ、例えばダンパーが働かないゆっくりしたロールの際には腰砕けのように頭が傾く。しかも悪いことにダンパーの初期応答性が悪いのか、初期ロールが速い。つまり速度の速い突き上げには硬く、遅いロールには柔らかすぎる印象を持った。正直なところ好印象とは言い難い。
ボディ剛性が上がったのは分かるし、より良いクルマを目指したとき、そうすべき理由も分かるのだが、旧型だって別段剛性不足は感じなかった。3リンクのリジッドアクスルという形式のサスペンションを前後に備えるジムニーの場合、ボディ剛性はロードホールディングに直接的には影響しない。四輪の支持剛性を担保するのは前後それぞれの車軸であり、車軸の強度が足りている限りにおいて、仮にシャシーの剛性が多少劣ったとしてもタイヤの支持剛性は崩壊したりしない。
シャシーやボディがいまひとつだと、サスペンションをマウントするシャシー側取り付け部から運転席座面までの伝達経路で、ゆがみや遅滞が生じるので、ドライバーはそれを感じ、タイヤからの重要な情報が混濁することになるだろうが、例えば、モノコックシャシー+中間連結型のトーションビームのマウントが緩いときに陥りがちな「切り返し時の舵の抜け感」にまでは至らない。ラダーシャシー+リジッド方式は他の形式に比べてシャシーやボディの問題が決定的な欠点にはなりにくいのだ。
旧型は太くて頑丈な背骨、つまりシャシーが単体でどっしりと入力を支えている感じが強かったが、新型ではそれに加えて外骨格であるボディまでガチッと硬くなっていることが感じ取れて、剛性の分担比率がだいぶ変わった感じがする。しかしその結果、従来しなっていなしていた突き上げを全部正直にドライバーに伝えてくる。その上、ロールに腰砕け感があるとなれば、ちとマズいではないか?
先代のシートは、質素な見た目で着座感もボッテリしながら、印象を裏切って機能的には優れていたが、新型では軽快な座り心地になった。見た目も着座感も商用車感が消え失せた。しかし同時に座面後端の尾てい骨あたりを支える割と肝心な部分の押さえが効いてない気がした。
そんなわけで、クルマを借り出した東京都港区から世田谷区あたりの市街地を走る間、ずっと頭の中で「一長一短」という言葉が渦巻いていた。変わって良くなったところは確かにあるのだが、失ったものも少なくないと感じた。
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