この冬話題の鉄道映画2本! 描かれたのは「地方鉄道」が果たす役割:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
この冬、地方鉄道が舞台となった映画が2本公開された。どちらも女性が主人公で「家族」をテーマにしている。もちろん、地方鉄道の現状の様子や美しい風景などもふんだんに盛り込まれている。この機会に楽しんでみては。
鉄道ファンにとって幸せなことに、現在、地方鉄道が舞台となった映画が2本、劇場公開中だ。そして、くしくも内容が似ている。主人公が女性で、家族再生の物語だ。どちらも素晴らしい作品で甲乙つけがたい。ぜひ、この機会に両方とも楽しんでほしい。感動すること間違いなし。ロケ地を旅したくなる。
『えちてつ物語』〜ビジネス書から生まれた物語〜
『えちてつ物語』は福井県で11月3日に先行公開され、11月23日から札幌、東京、横浜、名古屋、大阪で全国公開開始。その他の地域でも、2019年2月までに順次公開が予定されている。東京で挫折したお笑い芸人が故郷に戻り、えちぜん鉄道のアテンダント(乗務員)として就職。その成長と家族の絆の再生を描く。
タイトルの通り、福井県のえちぜん鉄道が舞台で、原案となる本は08年に出版された『ローカル線ガールズ』だ。著者の嶋田郁美氏は当時、えちぜん鉄道の現役アテンダントだった。本書が「原作」ではなく「原案」となった理由は、小説やエッセイではなくビジネス書だから。表題だけ見ると、鉄道好きな女性の趣味的な話に思えるけれど、内容はえちぜん鉄道の再生と地域との共生、アテンダントの意義を紹介している。
えちぜん鉄道は運転士のほかに女性アテンダントが乗務している。全国的に見ても珍しい施策だ。アテンダントは切符の販売や旅客案内、高齢者などの乗降補助を主な業務とし、観光案内放送も行う。車掌に似ているけれど、ドアの扱いや出発合図など、運転に関わる業務はしない。接客専門の職種だ。当時はかなり話題になり、女性アテンダントを乗せるようになった鉄道会社も多いけれども、後発のアテンダントは観光案内が主なようで、乗客案内役として普通列車に乗務するアテンダントはえちぜん鉄道ならではの特長だ。
地方鉄道の経営が厳しい中で、なぜえちぜん鉄道は人件費を割いてアテンダントを乗せているか。これは『ローカル線ガールズ』の文中、『えちてつ物語』の劇中でも紹介されている。
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