自動車関連諸税の議論大詰めへ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
2019年10月1日に決まった消費税引き上げに関連して自動車税制が見直される。その議論が大詰めを迎えつつある。日本の自動車関連諸税は主要国と比べて異常に高い。今回はそこから解説をしていきたい。
1000億円超の減税は本当か?
報道によれば、政府は自動車関連税全体で1000億円を超える減税の調整に入っているという。減税は購入時負担、保有時負担の両面で行われ、自動車税の抜本改革に着手するそうだ。
しかし、どうも微妙なのが自動車取得税の代わりに創設される「環境性能割(仮称)」だ。課税なのに割引のようなネーミングに違和感があるが、まあそういう名前なので仕方ない。
これは実質的には自動車取得税の代替税で、これまでと違うのは燃費性能によって課税が変わる点だ。素案の段階では全販売車種のうち、半数程度が非課税になるのでないかと言われている。
これがどうも怪しい。総務省の「平成27年度自動車税制のあり方に関する検討会」の資料によれば、02〜04年あたりの自動車取得税の税収合計は4500億円程度となっている。これがエコカー減税の開始以降、2000億円を切るケースが増えてきた。表組みに掲載されている中で一番少ない14年にはエコカー減税の拡充を行なったこともあり、948億円に下落している。
クルマの売れ方もエコカー減税の対象と減税率も年度によってそれぞれ異なるので、イコールで比較はできないだろうが、それでもトータルで見る限り4500億円レベルあった税収が1000億円以下にダウンしているのは事実である。
環境性能割(仮称)の理念は分かる。環境に良いクルマにインセンティブを付けるというのは今日の国の責任として当然のことだ。ところが、それと引き換えにエコカー減税を縮小という怪しげな話になっている。確かに趣旨はダブる。環境性能割(仮称)に役割をバトンタッチしてエコカー減税が縮小するという考え方は否定しないが金額ベースで妥当なのか?
実際14年のエコカー減税の対象(非課税65.7%と軽減率80%:8.5%、60%:13.1%の合計)は87.3%にも及び、10台のうち9台は減免されることになる。これを背景に置くと「全販売車種のうち、半数程度が非課税になるのでないか」の意味が真逆に見えてくるのだ。
報道にある通り、減税規模を1000億円以上(ちょい超え程度)とすれば、一見大減税に聞こえるが、実態はエコカー減税がない場合に想定される4500億円を3500億円程度にする話で、なぜか減税案を実行すると、実質的に税収が1000億円から3500億円に増える話の可能性が高い。もちろんこれは詳細の語られていないエコカー減税の縮小がどういう規模なのかにもよる。つまりこのプランが本当に減税案なのか、それともそれを隠れ蓑にした増税案なのかはエコカー減税の縮小案に依存する。ただし、意地悪を言えば、948億円の税収から1000億円超えの減税はできない。算数が分かれば、誰でも理解できる話である。
試案の段階で断言はできないとはいえ、筆者の個人的見解を言えば、減税に見せかけた実質増税の可能性が高い。これまで自動車ユーザーを小馬鹿にする不条理な税制を続けてきたのだから今度だけは信用しろと言われても困る。逆に今回本当にユーザーのためになる妥当な税制改革をしてくれるならば、当局に対する自動車ユーザーの見方は大きく変わるかもしれない。
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