自動車関連諸税の議論大詰めへ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
2019年10月1日に決まった消費税引き上げに関連して自動車税制が見直される。その議論が大詰めを迎えつつある。日本の自動車関連諸税は主要国と比べて異常に高い。今回はそこから解説をしていきたい。
代替税設立の不毛
さて、現在自動車関連税は9種類にも及び、そこに軽減税率などが設定されたりした結果、異様に複雑化している。まずは税の妥当性が直感的に分からない上、論点があちこちに飛び、議論が進まなかったのはこの複雑な税制によるものだ。だから、もっと単純化した分かりやすい改革が求められている。もちろん諸外国に比べて高額な点も見逃せない。シンプルかつ妥当な税制が求められている。
にもかかわらず、与党案も野党案も自動車関連税の中で「税収中立」を目指している。それはおかしい。代替税を自動車関連税の中に創設するのでは議論する意味がない。例えば、レストランのホール係が「2番テーブルを片付けて」と言われて、それを全部1番テーブルに移動して仕事が終わったような顔をする話だ。それは仕事ではない。
「税収が不足しているのに、代替税源のない減税案は非現実的だ」という人がいるが、税収の不足は全体の問題だ。日本の政府予算がざっと100兆円、対する税収が60兆円で、不足は40兆円である。それは税体系全体の見直しで考えるべきであって、なぜ課税根拠が破たんし、諸外国との比較で異常に高い自動車税制を正すのに、その代替案を同じ自動車の範疇(はんちゅう)に求めるのかは理解不能である。
どうしても税の問題を自動車税で解決せよと言うならば、自動車取得税は1台800万円程度にしなくてはプライマリーバランスの是正には至らない。それもこれまで通り年間500万台の新車が売れての話である。
税のグランドデザインが破たんしているから問題になっているのであって、国の予算全部をどういう負担で分担するかを真剣に考えるべき時に、泥縄で部分だけ見て議論しても始まらない。
日本全体のこと、つまり国民の暮らしやすさや働きやすさのためには、そろそろ自動車ユーザーが負っているいろいろなしわ寄せを解決すべきだ。自動車産業は日本全体の経済にとって極めて重要な産業である。
今回は税の話をしたが、取材を進めつつ、不定期で保険の問題や車検の問題なども含めてレポートしていきたいと考えている。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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