ジオンの国力増強策から我々が学ぶこと:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(3/6 ページ)
前回に続き、ガンダムの世界に登場するジオン公国とその系譜を題材に「国力」について考察する。まずは、ジオンの資源から見ていこう。
スペースコロニーでの経済施策
国力を測る指標として、思想や文化の成熟度も挙げられるだろう。ジオン公国はどうだったのだろうか。それらを考察するにあたり、まずは、ジオン公国が拠点とするスペースコロニー(宇宙空間に作られた人工の居住地)の環境を地球との対比で見ていきたい。
スペースコロニーでは、空気や水の確保は地球以上に重要である。地球からの輸送コストを抑えるためにも、地球の環境負荷を減らすためにも、空気や水を可能な限り浄化して、再利用する必要がある。他の資源も可能な限りリサイクルすることが望ましい。
スペースコロニーの生活について、「機動戦士ガンダムZZ」(第2話シャングリラの少年)では、ジュドーが「空気や電力の料金は税金以上に取り立てられるからな」と語っている。地球連邦政府がコロニーの環境維持に必要なコストを負担したとは考えられないため(それだけの恩恵があれば、ジオンは独立戦争を仕掛けなかったはずだ)、各コロニー、あるいはコロニー群(サイド)で環境維持コストを工面していたのだろう。
経済学では、取引の外で発生するコスト(外部不経済)に価格をつける(内部化する)ことで、持続可能な環境や経済成長につながると考える。経済活動に伴って生じる二酸化炭素等の温暖化ガスに税金をかけることで、需要を抑制するとともに、二酸化炭素を吸収する植林などに必要な費用を賄う炭素税が、内部化の代表例である。
炭素税の提唱者であるウィリアム・ノードハウス氏は、2018年にノーベル経済学賞を受賞している。1990年代に経済学徒であった方にとっては、「サムエルソン経済学」の共著者として知名度が高い。
現実には、温暖化ガスという、今すぐには人類に悪影響を与えないような外部不経済だけではなく、目に見えるペットボトル、プラスチック製品といった分かりやすいケースでさえも内部化ができていない。各自の負担が少なければ、環境という共有財産に負荷をかけ過ぎる現象は、共有地の悲劇として知られている。
外部不経済の問題は、私的コストと社会的コストの問題とも言える。環境変化にぜい弱なスペースコロニーでは、私的コストと社会的コストを一致させるために、空気や電気に高い料金を設定して、外部不経済を減らす施策が徹底されているのである。
「機動戦士ガンダムZZ」の主人公であるジュドーはお世辞にも模範的な学生とは言えず、その友人たちも同様であるが、その彼らでさえ高い料金の支払いを甘受している。コロニーというスマートシティでは、公共料金の踏み倒しやごまかしが難しいという理由もあろうが、環境を維持するためにはコストがかかり、その支払いをするのは当然と受け止めているのだろう。
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