ジオンの国力増強策から我々が学ぶこと:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(4/6 ページ)
前回に続き、ガンダムの世界に登場するジオン公国とその系譜を題材に「国力」について考察する。まずは、ジオンの資源から見ていこう。
環境主義
この点は、現代の地球人とは大きな違いである。フランスの黄色いベスト運動(間違ってもベスパのイエロージャケットではない)は燃料価格の引き下げを求める活動に端を発している。燃料価格が下がれば、需要が増えて、大気汚染や地球温暖化に影響しかねないが、そうした大所高所の議論よりも目先の生活が大事と考えるのが地球人である。コロニー住民・スペースノイドと地球住民・アースノイドとは環境の保全について価値観を異にしているのである。
そもそも、宇宙移民は地球上で人口が増えすぎたため、宇宙に棄民することから始まっており、地球の食料確保と環境問題が原因である(食料確保と環境問題は不可分でもある)。
ジオン公国はジオン・ダイクンが提唱したジオニズムと呼ばれる思想に影響を受けており、スペースノイドの自治・独立と地球環境保全は国是である。短期決戦のための必要悪として、地球にコロニーを落とした。スペースノイドとしては、過激な環境主義思想(現代で例えれば、環境保護活動家によるテロ)やジオン特有の選民思想には不快感があっただろう。
だが、ジオンの根幹にある環境主義は、スペースノイドにとっては共通の思想基盤である。地球環境保全のために宇宙に居住することを強いられた記憶があり、環境主義の否定はスペースノイドにとってアイデンティティの否定につながる。地球連邦からの自治・独立も、どこまで地球連邦に求めるかという温度差はあるにせよ、スペースノイドの権益拡大につながるため受け入れられやすく、ジオンを全面否定することは難しい。
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