ジオンの国力増強策から我々が学ぶこと:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(5/6 ページ)
前回に続き、ガンダムの世界に登場するジオン公国とその系譜を題材に「国力」について考察する。まずは、ジオンの資源から見ていこう。
思想や文化も国力を示す
こうした思想・文化的な影響力もまた、国力の一つの側面であろう。冷戦期、共産主義国家の脅威が資本主義国家では声高に喧伝されたが、軍事力や過大評価されていた経済力以上に、思想・文化的な影響力を恐れていた面は否めない。
逆に、米国はハリウッド映画に代表される文化輸出を積極的に行った。また、第1次世界大戦、第2次世界大戦と続けてドイツに敗北したにもかかわらず、フランスの今日の評価があるのは、フランス文化の貢献が大きい。
一年戦争時にジオン軍に占領されたグラナダやフォン・ブラウンでは、レジスタンス運動が盛り上がらなかったためか、ジオン軍MSの製造拠点として機能した。また、地球連邦には与せず、サイド6は中立を表明している。そこには、ジオンを全面否定することはできない、環境主義といった思想への共感があったからだろう。
もっとも、戦争終盤になるとサイド6はガンダムNT-1「アレックス」のテストのために、地球連邦軍に協力しており、この辺りは、一歩外は死の世界というコロニー居住者の現実的な政治感覚の表れと言える。
時代を追って、第1次ネオ・ジオン紛争ではハマーン・カーン率いるネオ・ジオン軍は、エゥーゴとティターンズという地球連邦軍の派閥争いに漁夫の利を得たとはいえ、手早く支配圏を広げることに成功している。第2次ネオ・ジオン紛争では、シャア・アズナブル率いるネオ・ジオン軍は地球連邦に所属するロンド・ベル隊の調査の目を逃れて軍備を整え、小惑星基地アクシズを地球に落として寒冷化させるという大規模軍事作戦に打って出ることができた。
地球連邦にもネオ・ジオンにも武器を提供するアナハイム・エレクトロニクスの存在や、地球連邦が嫌われているという消極的な事情だけではなく、スペースノイドの積極的な支持がなければ、ここまでの作戦を行う準備を隠し通すことは不可能だったはずだ。ロンド・ベルへの密告を控えただけではなく、偽装工作に進んで協力した者もいただろう。
また、ジオンMSも軍服も、地球連邦軍に比べてデザイン・ファッション性に優れている。「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」(第11話ラビアンローズ)で、アナベル・ガトーは巨大MA(モビルアーマー)ノイエ・ジールを「素晴らしい。まるでジオンの精神が形になったようだ」と称賛している。
兵器の造形に精神性を持たせるという次元でジオンの文化水準は高かった。武器の歴史としては珍しく、あえて例えるのであれば、日本刀のイメージに近いかもしれない。そうした独特の文化、精神性に引かれる者も多かったはずだ。
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