庶民と金持ちの格差広がる 消費税増税のポイントは景気対策ではない!:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
2019年10月に消費税が10%に引き上げされる。これがなぜ景気の落ち込みにつながるか? 増税すれば消費者の財布から消費の原資を奪うのは当然だが、最大の理由は消費税の所得逆進性にあるのだ。
不労所得者の実態
ついでながらではあるが、いくつかのデータを挙げておきたい。まずは、一般的なサラリーマンの平均年収の推移だが、これは予想通り、右肩下がりで最近やっと落ち着いたという状況が示されている(図表3)。
続いて、富裕層の主要な資産である株式、不動産の動きについて見てみよう。取引所グループの資料によれば、08年のリーマンショックで落ち込んだ以降の10年間で、株価は順調に回復。株式時価総額はざっくり300兆円から一時は700兆円にまで増えた。富裕層の保有株式も倍以上に膨らんでいることは想像がつく(図表4)。
次に不動産所得(いわゆる不動産賃貸業の収益)と申告者数の時系列推移である(図表5)。これは驚きのデータだった。昭和期から拡大を続け、バブル期を経ても、リーマンショックがあってもほとんど落ち込むことなく推移し、景気変動の影響を受けない安定的な収入を地主の方々に提供し続けてきたことが分かる。一般的な給与所得者層が、給与水準の停滞や非正規シフトに怯えていた中、持てる者との格差は着実に開いているようだ。この状況で、逆進性の高い消費税引上げのみで財政再建をしようとすれば、庶民が支えている個人消費の将来も危うい。
不労所得を得ている者と、汗をかいて働く者と、どちらが社会に還元すべきかと問われれば、その答えは聞くまでもないだろう。歴史的な経緯をみれば分かるように、人間社会は放っておけば、r>gの方向に進んで行きがちであり、これに対して持たざる者が我慢の限界を超えると暴発し、何らかの修正をかけるということが繰り返されてきた。今の我々は民主主義のルールに従って、持っているモノに応じた税負担に修正していく形で、強力な「r」の力に歯止めをかけていく必要がある。不労所得には、労働の対価である所得よりも高い税負担を求めるべきだ、ということだ。
資本主義社会である以上、高いリスクに身をさらし、努力して成功した企業家が、社会的に許される範囲の高い報酬を得ることは当然である。しかし、高い報酬を得たものは高い税負担も引き受けるべきというルールもあり、所得累進の税が設計されている。
ただ、あまりに高い累進課税を掛けることは、社会全体のチャレンジ精神を低下させ、活力を失わせることになるため、成功者のメリットが感じられなくなるような税負担を掛けるのは得策ではないとされている。しかし、生まれつき資産家(含む相続)だったことを理由に、高い資本収益を得ている場合には、この限りではないだろう。不労所得(現在の分離譲渡所得となっている株式、不動産等の譲渡益と賃貸不動産収益)にはある程度上乗せした税を負担してもらえばいい。当然ながら、個人の所有権を侵害しない適正水準ではあるが。資本収益率のほうが常に高いのでは、社会に活力がなくなってしまう。高い報酬を得られるよう、より多くの人がチャレンジする「r<g」の世界を目指すべきだろう。
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