「佃製作所はやっぱりブラック企業」と感じてしまう、3つの理由:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
ドラマ「下町ロケット」の特別編が放映され、14.0%という高視聴率を叩き出した。多くの人がこのドラマを見て胸が熱くなったかもしれないが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。ドラマの内容を考えると、「日本の未来に不安を感じる」という。どういう意味かというと……。
伝統的な労働観が散りばめられている
佃製作所は高い技術力があるという設定で、なおかつフィクションなので、精神論を振りかざしたうえで最後はきっちり成功を収める。ロケット打ち上げも成功するし、敵対していたライバルたちも涙を流して己の過ちを認める。
だが、現実の中小企業で、佃航平のような「根拠なき精神論」を振りかざしてもロクなことにはならない。経営者にとって最も必要な論理的思考、客観的な状況判断を阻(はば)んでしまうからだ。
もちろん、経営のなかで「人の心」という視点を持つことは決して悪くない。というより、社員はロボットではないので、「人の心」のケアは絶対に必要だ。ただ、それはやるべきことをやったうえでの話であって、「人の心」がビジネスの成功をもたらせるわけではないのである。
戦略、人財、技術力、商品力などなど諸々の条件を満たさず、「根拠なき精神論」へと傾倒した組織は、社員を「駒」のように扱う非人道的なブラック組織にしかならない。その最たる例が、「神国・日本は絶対に負けない」と叫び続けて、兵士の命を紙くずのように扱った旧日本軍である。
佃製作所も残念ながら、そんなブラック組織のにおいが漂っている。朝礼でビシッと整列した社員の前で佃航平が熱い演説をぶちまけると、みな集団催眠にかかったように「やるぞ!」「よし、残業だ!」と火がつく。
これは、旧日本軍で無謀な作戦に投入される兵士たちを前に、上官が精神論・根性論を振りかざすと「あの世で会おう」「立派に散るぞ」と高揚する構図と丸かぶりだ。
我々はそういう気色悪い全体主義から抜け出そうと戦後70年やってきたはずだが、佃製作所の「神格化」でそれがチャラにされているのだ。
いろいろと指摘させていただいたが、「下町ロケット」というドラマがここまで日本人の琴線に触れるのは、やはり日本の伝統的な労働観が散りばめられているからではないだろうか。
だとすれば、エンタメ作品としておじさんたちがスカッとするだけではなく、もっと有効な活用方法もあるはずだ。
例えば、外国人労働者への教育だ。
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