アメコミの巨匠スタン・リー 知られざる「日本アニメに見いだした夢」:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(6/6 ページ)
2018年に亡くなったアメコミの巨匠スタン・リー。実は晩年、日本のアニメ・マンガを積極的に手掛けていた。異国のコンテンツビジネスに見いだした夢とは。
「ビジネス下手」という日本人との共通点
そんなするどい嗅覚の一方で、晩年のスタン・リーは、実はマーベル時代ほどの傑作を生み出していない。日本の作品でも当初ソニーミュージックグループ系企業とのアニメ化も視野にいれていた「機巧童子ULTIMO」は15年に連載終了。結局、映像化には至らなかった。「ザ・リフレクション」のさらなるユニバースも語られていない。
それはスタン・リーがビジネスをあまり得意としていなかったことにも理由がありそうだ。何度も経営危機に揺れたマーベルの中で、スタン・リーは編集人・発行人という立場が大半で経営に深く関わることはなかった。
1999年に設立されたスタン・リーの名前を冠したベンチャー企業スタンリー・メディアは、場当たり的な経営で詐欺事件としての結末を迎えた。日本アニメと深く関わることになったPOW!Entertainmentも、2017年に全ての権利を香港の承興国際控股有限公司に売却している。
売却された中には作品の権利だけでなく、スタン・リー自身の名前やイメージ、肖像権も含まれていた。18年5月にはこの取引がだまされた結果であるとして、スタン・リーが訴訟を起こす不可解な展開となった。
スタン・リーはその生涯で数々の裁判を起こし、起こされてきた。だがそれは経営やビジネスでうまく立ち回れなかったことの裏返しでもある。スタン・リーは生粋のクリエイターだった。
それはクリエイター気質のためビジネスではうまく立ち回れない日本のエンタテインメント企業やクリエイターをもほうふつとさせる。日本でのスタン・リー人気の背景には、そんなパーソナリティーに対する親近感もあるのではないだろうか。
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