エロ漫画の「研究本」はなぜ有害図書にされたのか 「わいせつ」の意味を問う:「エロマンガ表現史」著者に直撃(1/4 ページ)
エロ漫画の表現の研究本「エロマンガ表現史」が有害図書に指定された。著者は「有害とは何か」について議論が行われてこなかったと指摘する。
成人向け漫画、いわゆる「エロ漫画」に登場する表現方法をまとめた「エロマンガ表現史」(太田出版)が波紋を呼んでいる。「おっぱいの表現の変遷」など、エロ漫画の描かれ方の移り変わりやルーツについて研究した本だ。あくまで一般書籍として発行されていたが、3月に北海道で有害図書指定を受けた。
同じタイミングで、エロ本の自販機についてまとめた「全国版あの日のエロ本自販機探訪記」(双葉社)が滋賀県で有害図書指定を受けたこともさらに議論を呼んだ。10月には日本マンガ学会とエロマンガ表現史の出版元である太田出版がそれぞれ抗議声明を発表した。
本書はエロ漫画独特の表現を説明するため性的なシーンの画像を多く引用・掲載している。ただ、「エロ」のコンテンツそのものでない純粋な研究書が青少年にとって「有害」だと行政から指定されることは異例だ。本書はなぜ有害図書とされたのか、「不健全」とは一体何なのか、著者でライター、美少女コミック研究家の稀見理都(きみ・りと)さんに聞いた。
エロ漫画の「触手」、ルーツは浮世絵の春画?
――そもそもエロ漫画、しかもそのストーリーではなく表現に絞って研究しようと考えたのはなぜですか
稀見: もともとエロ漫画の業界の人に取材したり資料を集めて評論を書いており、同人誌にまとめてコミックマーケットで発表していました。その後、出版社の人に声を掛けてもらったのが本書を本格的に書くきっかけです。
エロ漫画の研究自体、先行例が少ないのですが、特に「表現」についての物がない。自分の持っている知識を使って書けば面白いのではと思ったのです。また、表現は「定量化」しやすい。漫画のストーリーに踏み込むと評論色が強くなりますが、僕は定量的に結論を出せる研究の方が向いていた。しかも(エロ漫画は)意外とそういった研究がなされてこなかったのです。(今までは)特異な表現だけを見つけ出してエンタメ的にまとめられた記事が多かった印象でした。
――確かに、例えばエロ漫画に登場するタコやイカのような「触手」のルーツは、江戸時代の浮世絵の春画だとする議論を耳にします。でも本書では「現代の表現と似た意匠、配置だからといって、それが現代文化と直接繋がっていると結論するのは危険であろう」と冷静に論じています
稀見: 人間というのは「AとBの間には何かある」と勝手に想像してしまうものです。でも、「間」が存在するかどうかを流れを読まずに結論付けてはいけない。確かに触手(表現)は江戸時代にあったが、(現代のエロ漫画との)間の部分は未開拓なのです。まだアーカイブ(資料)が整理されていないテーマです。
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