「いい加減にしてよアグネス」から30年 “子連れ出勤”論争に根付く3歳児神話の呪縛:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
30年前のアグネス論争がきっかけで生まれた言葉「子連れ出勤」。いまだに政治家が「3歳児神話」を持ち出し、批判されている。まだまだ子連れ出勤には課題がある。難しい問題だが、神話ではなく「ケア」の考え方が必要だ。
平成が終わりを迎えても、激しい論争は続く
そうです。30年も前です。昭和から平成に変わったのに、2017年に話題になった熊本市議の子連れ出勤がクローズアップされるなど、今なお社会問題であり、「待機児童問題」という新たな視点も加わり激しい論争が続いています。
つい先日も、宮腰光寛少子化担当相が、子連れ出勤を政府として後押しする考えを表明したことで、猛烈な批判が相次ぎました。
報道によれば、宮腰氏は子連れ出勤を取り入れている授乳服メーカー「モーハウス」を視察し、「赤ちゃんの顔が幸せそう。乳幼児は母親と一緒にいることが何よりも大事ではないかと思う」「(子連れ出勤は)新しい施設を整備する必要がなく、企業の規模にかかわらず取り組むことができる。想像以上に『これなら、どこでもできるのではないか』と実感した。この取り組みをモデルとして、全国へ広めていければと思う」と記者団に話したとのこと。
……んったく。政治家ほど「学習」しない生き物はいないのではないか、と暗たんたる気持ちになります。「懲りない」という言葉はこういう人たちのためにあるのでしょう。
安倍晋三首相の「3年間、抱っこし放題です!」発言で炎上したことを忘れてしまったのでしょうか。今どき「おっちょこちょいのおじさん」だって、「乳幼児は母親と一緒にいることが何よりも大事」だなんて、会社じゃ絶対に言いません。
育児問題は「これでもか!」というくらい問題が山積しているわけですし、「保育園落ちた日本死ね」と題したブログが反響を呼んで以降、政府は「待機児童問題を解決します!」と断言しながら全く解決してないわけですし、「まずはそこをしっかりやれ!」と突っ込まれることくらい、容易に想像がつきます。
おまけに「『これなら、どこでもできるのではないか』と実感した」とは、なんというお気楽さなのでしょう。「1回でもいいから満員電車に乗ってみろ!」とか、「一度でいいからワーママの1日に同行してみろ!」とは言いません。でも、視察した「モーハウス」を経営する光畑由佳社長の「今」に至るまでの20年近い足取りを知っていたら、「どこでもできる」とはそう簡単に出てくるわけがないのです。
「この種の人間に、おそらく何を言っても通じるはずはないのだ」(by 林真理子さん)であり、「そんなこと、日本の社会で許されると思ってんの? バッカじゃないの?」(by 勝手に林真理子さんの気持ちを代弁した河合薫)ってところでしょうか。
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