「いい加減にしてよアグネス」から30年 “子連れ出勤”論争に根付く3歳児神話の呪縛:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
30年前のアグネス論争がきっかけで生まれた言葉「子連れ出勤」。いまだに政治家が「3歳児神話」を持ち出し、批判されている。まだまだ子連れ出勤には課題がある。難しい問題だが、神話ではなく「ケア」の考え方が必要だ。
子連れ出勤はアリ 「取りあえずやってみる」も必要
いずれにせよ、個人的には“子連れ出勤”は「ケア労働」の重要性を広く周知させるためにも、ありだと考えています。ケア労働とは「市場労働(有給)」に対する言葉で、家事、育児、介護、ボランティア活動などの「無償の労働」を意味します。
人が生きていくには、市場労働だけではなくケア労働も必要不可欠です。しかしながら、その当たり前がないがしろにされているのが現状です。
もちろん子連れ出勤にはいろいろと壁はあるでしょうし、次々と予期せぬ問題が起こるでしょうし、反対論が絶えることはないかもしれません。実際、林真理子さんは著書「野心のすすめ」の中で、こう書いています。
アグネスさんの「子どもを連れて行ったことで、職場の雰囲気がなごやかになりました」発言はいくらなんでも鈍感すぎるのではないかなと、自分が子どもを持ったいまでも当時と同じことを思います。(「野心のすすめ」より抜粋)
また、「子ども」という言葉はある種の「美徳」を醸し出すので、サイレントクレーマーは少なくないかもしれません。それでもやはり子連れ出勤できる会社が増えてほしいし、増やすべきです。
だって、2020年には総人口の10人に8人が40歳以上です、10人に6人が50歳以上です。女性に限ると「50歳以上の人口が、0〜49歳人口を追い抜き、日本女性の過半数が出産期を終えた年齢になる」。ワーキングマザーは超マイノリティーです。
「子どもは宝」だの「子どもは未来」だの言うのなら、好きとか嫌いとか、良いとか悪いとか白黒つけず、「取りあえずやってみようぜ!」という寛容さは必要だと思うのです。
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