メルカリが宇宙分野に参入する理由:宇宙ビジネスの新潮流(3/3 ページ)
フリマアプリを運営するメルカリの名を知らない人は少ないだろうが、同社の研究開発部門が宇宙分野で取り組みを進めていることはご存じだろうか? この宇宙プロジェクトをリードする大堂さんに話を聞いた。
農業分野でのイノベーション
具体的な取り組みの1つが、JAXAのJ-SPARC(筆者注:2018年5月にJAXAが立ち上げた民間事業者等との共創により事業化を目指す新しいイノベーションパートナーシッププログラム)の枠組みを活用した社会課題解決型の研究開発です。その中で、私は農業分野に注目をしています。
農業分野では今、さまざまなデータを駆使した営農ソリューションに注目が集まっていますが、作業管理が目的となっているものが多く、全国の農業法人や専門団体の方と話すと課題解決まで到達していない状況があるように感じます。ひとつは、管理視点ではなく効果視点での取り組みが重要だと考えています。また、作物を育てるだけではなく、土作り、物流、農業融資などより包括的な取り組みが肝要だと痛感しています。
具体的には、衛星データを利用して植生や土壌などの地表面を検証することで、営農による変化量や効果量を数値化する技術(メルカリ独自特許出願中)を研究しており、これまで衛星データにはなかった物理量の見える化に注力をしています。これらは、独自の営農指標、データシェアリング、信用スコアリングの3つのモデリングで進めていきます。
衛星データプラットフォーム構築にも関与
別途進めているプロジェクトが、経済産業省の衛星データオープン&フリー化の核となるアライアンス、X Data Allianceへの参画です(筆者注:経済産業省が行う平成30年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業の委託を受けてIT大手のさくらインターネットが開発している衛星データプラットフォーム「Tellus」の開発貢献と利用促進を目的とする企業アライアンス)。
これまで衛星データは専門の技術を持った人のみが使ってきましたが、こうしたプラットフォームができれば、誰もが特殊なスキルなしにデータを活用することができます。これは、従来の常識を破壊する起爆剤になると考えています。近未来の解決すべき社会課題設定を踏まえて、どういった衛星データがあるべきか、データ要求をお伝えしながら、パートナー企業として衛星データプラットフォームを活用していきます。
昨今は異業種企業の宇宙ビジネスへの参入が増えつつあるが、mercari R4Dのような新進気鋭のチームが取り組みを進めていることは意義深い。同社の今後の成果に注目していきたい。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、15年のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE共同創業者 兼 代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)。
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