ジェフ・ベゾスはなぜ月を目指すのか?:宇宙ビジネスの新潮流(1/2 ページ)
ロケット開発を進める米Blue Originの創業者、ジェフ・ベゾス氏は、「人類は月に戻るべきだ。そして今回は滞在しなければならない」として、月に人類の恒久的拠点を築くことを目指している。
月に人類の恒久的拠点建設
ロケット開発を進める米Blue Originの創業者であるジェフ・ベゾス氏は5月末に開催されたISDC(International Space Development Conference)において、目指す目標として「人類は月に戻るべきだ。そして今回は(到達するだけでなくて)滞在しなければならない」と語り、月に人類の恒久的拠点を築くことを掲げた。
同氏は月と地球の距離感、太陽光が24時間降り注ぎ太陽光発電に適したクレーターの存在、ロケットの燃料等に有効活用な水資源の存在、資源として活用可能なレゴリス(粒状の月表面の土)の存在などが、月に恒久的拠点を作るために適している理由だという。
地球外への人類の移住という考えでは、イーロン・マスク氏と米SpaceXの掲げる火星移住があまりにも有名だ。今回ベゾス氏は「月の恒久的拠点を作らずに火星を目指した場合、仮に成功したとしても、盛大なパレードが行われた後、50年間何も起きなかったアポロ計画と同じになる」とけん制もした。
ベゾス氏がBlue Originを創業したのは2000年。ITバブル絶頂期の最中、宇宙への思いを密かに抱いてきたことの証左といえる。ただし、長い間何も公表してこなかった同氏と、Blue Originが表立って月を目指す考えを大々的に語り始めたのは近年だ。その背景にあるビジョンは一体何だろうか。
重工業は地球外へ
そのヒントとなるのは、筆者も出席した16年に米国・コロラドで開催された宇宙カンファレンス「Space Symposium」での発言だ。基調講演として登壇したベゾス氏は「数百万人という人が宇宙で暮らし、働けるようにしたい。宇宙までも見据えた文明(spacefaring civilization)にしたい」と語っていた。
加えて「将来的に地球を救うには宇宙を活用しなければならない。限られた地球資源のためにもほとんどの重工業は地球外に移行し、地球は居住用または軽工業用のための地域とすることを考えている」とも話しており、まさにこの重工業を移転する拠点として今回、月を明確な目標として掲げた格好といえる。
また同氏は以前「(Amazon創業時には)いろいろなインフラが既にあったが、宇宙にはそういったピースがない。重要なのは今よりずっと安いコストで宇宙へ行けるようになることだ」と語っており、数ある宇宙ビジネスの中でも、ロケットなどの輸送系に対する思い入れが強い。実際、小型ロケット「New Shepard」とBE-3エンジン、大型ロケット「New Glenn」とBE-4エンジンの開発を進めている。
さらに、今回の月の恒久的拠点建設のためのステップとして、月面に5トンの物資を輸送可能な着陸船Blue Moonのコンセプトも公表済みだ。同じ輸送系ビジネスという意味では、既に商業打ち上げサービスを行っているSpaceXとの間には実績で差分があるが、米国関係者ではBlue Originのポテンシャルを評価する声は多い。
関連記事
- 人類は再び月へ 発表されたNASAの予算案とは?
米国連邦政府の予算教書で、NASAの今後の計画が見えてきた。今回は2022年から始まる月周回軌道上の居住基地建設、23年の有人月近傍ミッションなど目玉となるプロジェクトを紹介したい。 - シリコンバレーで発表された宇宙ホテルの不動産事業とは?
米国シリコンバレーで宇宙ビジネスカンファレンス「SPACE 2.0」が開かれた。ここで今回初めて発表されたのが、米Orion Spanによる商業宇宙ステーション構想だ。一体どのようなものなのだろうか。 - 米国投資家が語る 宇宙ビジネスで“張る”べき領域とは?
米国・サンフランシスコで開催された宇宙ビジネスカンファレンス「NewSpace 2017」において、例年以上に投資家によるセッションが目立った。彼らは今何に注目するのか? - マスクとベゾス、二大巨頭が挑む宇宙アクセス革命
SpaceX率いるイーロン・マスク氏と、AmazonのCEOでBlue Origin率いるジェフ・ベゾス氏。世界的なカリスマ経営者であるこの2人の巨人が今、宇宙ビジネスに新たな革命を起こそうとしているのだ。 - 養殖を変える日本発衛星&遺伝子ベンチャー
21世紀は「養殖の時代」と言われる。既に天然漁獲高と匹敵しており、将来的には養殖が市場全体の3分の2を占めるという。そうした中、愛媛で世界の養殖産業を変え得る実証事業が行われているのだ。ユニークなのは、衛星技術とバイオ技術を駆使している点である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.