ジェフ・ベゾスはなぜ月を目指すのか?:宇宙ビジネスの新潮流(2/2 ページ)
ロケット開発を進める米Blue Originの創業者、ジェフ・ベゾス氏は、「人類は月に戻るべきだ。そして今回は滞在しなければならない」として、月に人類の恒久的拠点を築くことを目指している。
政府に頼らずともやり切る
月に関しては、NASA(米航空宇宙局)をはじめとする各国政府系宇宙機関も目指している。17年2月に発表された米政府の予算教書では「Lunar Orbital Platform-Gateway」に予算が付き、月周回軌道上に居住基地を設置、同居住区は研究目的や商業組織による月探査などにも使われるとともに、将来的には火星探査のための中継基地として使われる想定だ。
従来はこうした国家主導のプロジェクトに民間企業が参加するのが通常であったが、Blue Originのスタンスは特徴的だ。先述の着陸船Blue MoonをNASAとの官民パートナシップで開発することを提案しているが、「NASAが行わなくても自分たちでやる」と主張するなど独自姿勢が強い。
NASA側のスタンスはまだ不透明だ。小型の着陸船に関しては4月にCommercial Lunar Payload Servicesと呼ばれる月までの商業輸送サービスに関するRFP(提案依頼書)が民間企業に対して開示されており、今後10年間で複数の契約を締結する意向だ。他方で、中型や大型の着陸船に関しては特に示されていない。
他方で、Blue Originは他国政府と話す準備も進めている。オーストラリアでは、今後の宇宙産業の拡大を見据えて今年7月から新たに宇宙機関を創設することが決まっており、今後の4年間に約4000万豪ドル(約33億2600万円)を拠出する。このオーストラリア政府に対して、同社は月の恒久的拠点建設プロジェクトに関して話す準備ができているという。このようにさまざまな活動を進めるベゾス氏とBlue Originの今後の動向を注目したい。
著者プロフィール
石田 真康(MASAYASU ISHIDA)
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル
ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、15年のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDE共同創業者 兼 代表理事。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。著書に「宇宙ビジネス入門 Newspace革命の全貌」(日経BP社)。
関連記事
- 人類は再び月へ 発表されたNASAの予算案とは?
米国連邦政府の予算教書で、NASAの今後の計画が見えてきた。今回は2022年から始まる月周回軌道上の居住基地建設、23年の有人月近傍ミッションなど目玉となるプロジェクトを紹介したい。 - シリコンバレーで発表された宇宙ホテルの不動産事業とは?
米国シリコンバレーで宇宙ビジネスカンファレンス「SPACE 2.0」が開かれた。ここで今回初めて発表されたのが、米Orion Spanによる商業宇宙ステーション構想だ。一体どのようなものなのだろうか。 - 米国投資家が語る 宇宙ビジネスで“張る”べき領域とは?
米国・サンフランシスコで開催された宇宙ビジネスカンファレンス「NewSpace 2017」において、例年以上に投資家によるセッションが目立った。彼らは今何に注目するのか? - マスクとベゾス、二大巨頭が挑む宇宙アクセス革命
SpaceX率いるイーロン・マスク氏と、AmazonのCEOでBlue Origin率いるジェフ・ベゾス氏。世界的なカリスマ経営者であるこの2人の巨人が今、宇宙ビジネスに新たな革命を起こそうとしているのだ。 - 養殖を変える日本発衛星&遺伝子ベンチャー
21世紀は「養殖の時代」と言われる。既に天然漁獲高と匹敵しており、将来的には養殖が市場全体の3分の2を占めるという。そうした中、愛媛で世界の養殖産業を変え得る実証事業が行われているのだ。ユニークなのは、衛星技術とバイオ技術を駆使している点である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.