エコカー戦争の局面を変えたプロボックスハイブリッド:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
トヨタ自動車は商用バンのベストセラー、プロボックスをマイナーチェンジ。焦点となるのはハイブリッドモデルの追加だ。プリウスの発売から24年を経て、遂にプロボックスにまでハイブリッドが普及したことになる。
ランニングコストでイニシャルコストを回収
さて、プロボックスの話なのに何でいつまでもタクシーの話をしているかと言えば、台数が多く、年間走行距離の多い商用車の燃費改善は、環境に対する貢献度合いが極めて高いということが言いたいのだ。
今回のプロボックスのハイブリッド化によって、トラックを除く商用車の電動化は一気に進み、残すところ商用モデルの半数を占めるハイエースのみとなった。
一見なにげないニュースに見えるかもしれないが、これは重大な一歩である。なぜならば、プロボックス・ハイブリッドは遂にランニングコストでイニシャルコストの差額を回収できる目処が立ったのからだ。
商用車の世界は厳しい。個人所有の乗用車なら「たとえ車両の差額をランニングコストで回収できなくとも、環境に貢献したいから……」というエクスキューズを顧客が勝手にして、環境対策のパトロンになってくれていた面がある。
しかし商用車ではそういうことは絶対に起きない。何しろ仕事の道具なのだ。理想の前に利益である。理想の話は後ですれば良い。企業が環境に貢献したければ、しっかり利益を上げて、それをNGOにでも寄付すれば良いだけの話だ。条件がそろえば、減税対象にもなる。
プロボックスのチーフエンジニアはその点についてこう語る。
「ランニングコストで確実にイニシャルコストの差分を回収し、利益が増えることを数値的に示せなければ厳しいビジネスユースの顧客には購入してもらえません。プロボックスの場合、一般に年間1万5000キロから2万キロくらい走ることが分かっています。その距離であれば仮にガソリン価格がリッター120円になっても採算に合います」
それはそうだろう。大幅な黒字が出て節税対策にと言うならともかく、まだ先行きの見えない期の決算にわざわざマイナス要因になる投資をする馬鹿な経営者はいない。商用車の導入動機は「機能を果たす限りコスト優先」である。
逆に言えば、今回トータルで見てガソリンエンジンよりハイブリッドがコストダウンに有効であることをトヨタが示した以上、今後は、経営者や購買決定者のエコ意識が高いか低いかにかかわらず、経営的選択によって必ずハイブリッドモデルが選ばれることになる。仮に「エコなんかくそ食らえ、もうかるかどうか以外に興味がない」という社長であったとしても、いやそういう人であればなおさらハイブリッドを選ぶことになるのだ。
遠くない将来、プロボックスの内燃機関オンリーモデルは激減するだろう。すでにMTの設定が消えた今、4WDが必須のケース以外(ハイブリッドには4WDの設定がない)でハイブリッドを選ばない理由は、唯一、手元不如意で初期コストが捻出できない場合だけになるだろう。そしてそういう会社の多くはわざわざ新車を買わない。
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