ハイラックスの方向転換:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
2018年11月、トヨタ自動車はハイラックスにZ“Black Rally Edition”を追加した。表向きはハイラックス誕生50周年記念モデルだが、筆者はもっと大きな意図を感じた。その理由とは……?
ハイラックスの未来
今回、筆者はさなげアドベンチャーフィールド(愛知県豊田市)の専用オフロードコースでハイラックスを試乗した。撮影の都合でコースの途中にクルマを降りて写真を撮ろうとすると、徒歩での上り下りに苦労するような厳しい傾斜で、穴の底は前日の雨が溜まった泥濘路なのだが、ハイラックスは上りも下りも平然とこなす。普通のクルマを普通に運転できる能力さえあれば、なんのテクニックも必要ない。2駆と4駆を切り替えるスイッチと、ダウンヒルアシストコントロール(DAC)のスイッチさえ覚えれば、あとはクルマがやってくれる。というか、4駆にさえしておけば、わざわざDACなんて使わなくても、普通の人がクルマで走る気になるような場所ならアクセルとブレーキでなんなく走破できてしまう。
あるいはプロのドライバーが、深く掘った穴にわざと前輪を落とし、ド新車のハイラックスのフロントバンパーをガリガリと地面に擦り付け、傷だらけにしながら穴から脱出するのを見た。強烈な性能だと思う。
日本では少なくとも公道にこんな道はない。もちろん林道の一部にはそういう場所もあろうが、本来そこは無届けで走って良い場所ではない。山は法律だけでなく入会権だの何だのととても複雑なのだ。中には正当に走行する権利を有する人もいるのだろうが、恐らくこの記事を読んでいる人のほとんどはハイラックスがフルに性能を発揮するような道路を走ることはないだろう。そういう意味ではこれはある種のスーパーカーなのかもしれない。
時速300キロ出せるクルマはお金さえあれば買えるだろうが、国内はもちろん、今や世界を見渡してもそんな速度を出して良い道は希少だ。だからと言って、そういうクルマの意味がないわけではない。
世界にはハイラックスでなくてはダメな状況はまだまだたくさんあって、そこでは本当に命がけでモノを運んでいる人たちがいる。
わが国でのハイラックスの半分はファッションとしてのクルマだろう。しかしもう半分は世界の悪路を走破する性能を持つスーパーカーとしての憧れで支えられていくのだろう。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
関連記事
- え!? これクラウンだよな?
トヨタのクラウンが劇的な進化を遂げた。今まで「国産車は走りの面でレベルが低い」とBMWを買っていた人にとっては、コストパフォーマンスがはるかに高いスポーツセダンの選択肢になる可能性が十分にあるのだ。 - エコカー戦争の局面を変えたプロボックスハイブリッド
トヨタ自動車は商用バンのベストセラー、プロボックスをマイナーチェンジ。焦点となるのはハイブリッドモデルの追加だ。プリウスの発売から24年を経て、遂にプロボックスにまでハイブリッドが普及したことになる。 - グーグル&Uberつぶしのトヨタ・タクシー
現在開催中の「第45回 東京モーターショー」。その見どころについて業界関係者から何度も聞かれたが、その説明が面倒だった。自動運転車や固体電池のクルマとかなら「ああそうですか」で終わるのだが、今回はタクシーなのだ。 - トヨタがいまさら低燃費エンジンを作る理由
トヨタは2021年までに19機種、37バリエーションものパワートレインの投入をアナウンスしている。内訳はエンジン系が9機種17バリエーション、トランスミッション10バリエーション、ハイブリッド系システム6機種10バリエーションと途方もない。なぜいまさらエンジンなのだろうか? - 見違えるほどのクラウン、吠える豊田章男自工会会長
2018年の「週刊モータージャーナル」の記事本数は62本。アクセスランキングトップ10になったのは何か? さらにトップ3を抜粋して解説を加える。 - トヨタがスープラを「スポーツカー」と呼ぶ理由
長らくうわさのあったトヨタの新型スープラが、年明けの米デトロイトモーターショーで発表されることになった。今回はそれに先駆けて、プロトタイプモデルのサーキット試乗会が開催された。乗ってみてどうだったか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.