予算は社員の自由? 上司の命令がない? 謎の組織「ホラクラシー」に迫る:理想の職場か、それとも幻想か(3/3 ページ)
社員の自律性を重視する欧米発の新たな組織論が話題に。そのうちの1つ「ホラクラシー組織」を実践する企業に直撃した。従業員が経営判断を担ったりする一方でCEOが干渉できない業務も。
経費運用は「性善説」
従業員が使い込みなどの不正をしないようさまざまな罰則や監視する仕組みを設けている一般的な日本企業と違い、経費の運用で基本的に「性善説」を貫いているのも同社の特徴だ。例えば社員の書籍の購入金額には上限はなく、たとえマンガであろうと自己判断で会社の予算を使って良いという。社員が業務に関連したイベントを開催する際にも同様の方針を取る。島田さんは「自分の良心に基づいて判断してくれればいい。乱用されない限りはいいのでは」と話す。
一方、マネジャーや上司がトップダウンで社員の業務を管理しない分、重視しているのが「情報の透明化」だという。同社では各ロールの担当者は業務の進捗を、ミーティングを通じてチーム全体に報告する仕組みを取っている。
scoutyに「DJ」というロールはまだないが、DJ経験のある社員がいるため社内に置かれている機材。島田さんは「ホラクラシーのおかげで職場がこの人のように本性を抑圧されず、パフォーマンスを発揮できる場になっている」と話す(同社提供)
運営する転職サービスの導入企業は50社以上に上り、18年末に3億円の資金調達を行うなど成長基調にあるscouty。島田さんによると、上記のような性善説に基づく組織運営で今のところ大きなトラブルは起きていないという。ただ、万一の「不正防止」の観点から、従業員向けに性悪説の施策も取らざるを得ない一般的な日本企業の感覚とは、やはり隔たりがある。
こうした従業員の高い自律性を認める組織運営は、果たして一般的になっていくのか。ティール組織の実践企業の分析などを通じて自律的な経営スタイルを研究している一般社団法人「自然(じねん)経営研究会」の代表理事、山田裕嗣さんは「性善説か性悪説かという議論は常に出てくるが、実際に経費をちょろまかすような人が出ないための権限作りが大事。やはり情報の透明性が重要になる」とみる。
例えば飲み代として経費を何十万円も使っている従業員が出た場合、その理由について他のメンバーへの説明が求められるシステムが有効という。「(自主経営の一環で)社員の給与を職場の全員に公開し、金額は話し合って決めている日本企業もある。自分の給料を不当に上げ過ぎようとする人は、だいたい居づらくなっていずれいなくなるようだ」(山田さん)。情報や決定プロセスを透明化することで、組織にあまり合っていないメンバーの“新陳代謝”が促されるという。
また山田さんは、こうした自律的な組織の概念は、ただ守れば効果を発揮する単純で具体的な「ルール」の形を取っていないため、会社側が機械的に取り入れる姿勢ではうまくいかないとみる。
「(他社の)やり方をまねすればいい訳ではない。『少額の経費なら好きに使っていいよ』とか、働いている人による(職場を)小さく変えていく積み重ねが大事。自分たちに合うやり方を探し、作り出すことが大前提となる」(山田さん)。その上で会社全体が自律的な組織に変わっていれば良いし、実は「変わらない方が良かった」という結果もあり得る、とみる。
現在、日本におけるティール組織やホラクラシー組織のような取り組みは、欧米と違って大企業での事例がまだ乏しいとされ、メジャーな会社運営の手法になるかは未知数だ。日本企業における組織と働き手の関係を変革する突破口となるか、それとも一過性の“バズワード”に終わるのか。今後の具体的な広がりが注目される。
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