【第2話】現場任せでは成果は出ない!?:「働き方改革」プロジェクトリーダーを命ず(1/3 ページ)
X製作所の働き方改革リーダーとして小田社長に任命された経営企画の日野下。社内の各部署のリアルな意見を聞くために、さっそく同期入社のメンバーを居酒屋に呼び出したわけだが……
小田信人社長とのランチを終えた日野下。小田社長の「スピード感」とは、社内共通語で「即決・3日・1週間」と言われ、理詰めでできる判断は即決すべし、複雑なものでも1週間でなんらかの答えを出し、次のアクションに移るべし、というものだった。
自席に戻り、社長との会話を反芻(はんすう)し、自問自答する。
「ふうー。働き方改革プロジェクトリーダーとはなあ……。『第2フェーズとしてゴール設定から考え直すべきです』とか言ってはみたものの、どこから手をつけて、どう進めれば良いのか? 今まで主体になってきた芝田さんや上地さんの顔をつぶすわけにもいかないし……」
「まずは、社長のおっしゃる通り、竹中さんと議論するか。今日は水曜だから明後日、竹中さんとの定例会議があるな。明日までに自分の考えを整理しておいて、金曜の定例会後に時間をもらおう。このお題は、まあ1週間コースか。来週水曜の社長の時間を確保しなくては」
その晩、X製作所の社員御用達の居酒屋「天下布武」で、日野下は久しぶりに同期たちと杯を傾けていた。就職氷河期入社だけに多くはないが、概ね課長にはなっており、日野下にとって頼りになる存在だ。経営企画として何かに取り組む都度、忌憚(きたん)のない意見を求めてきた。コンサルタントとの議論に先立ち、現場の状況や意識を把握しておきたかったのだった。
木曜日だけに店内にはX製作所社員も多い。それを見越して予約しておいた奥の個室で、日野下が口を開く。
日野下: 「やっぱり同期はいいな。今日はゆっくり飲もう。と、言いたいところだが、例によって皆の意見を聞かせて欲しい。今回は『働き方改革プロジェクト』についてだ。半年前にプロジェクト化されたことは知ってるよな?」
加藤人事課長が答える。
加藤: 「まったく、日野下の誘いはいつも社長の命を受けた偵察だからな(苦笑)。知ってるも何も突然部長に呼ばれて、『働き方改革をやることになったから確実にできそうな残業削減施策を10個くらい見繕え』とか言われて参ったよ」
日野下: 「そう、そのプロジェクトについて、現場でどこまで進んでいるか、社員の意識はどうなのか、率直に聞かせて欲しい。申し訳ないが、背景や意図はまだ言えない」
加藤: 「結局、人事としては他社の事例を調べて、ノー残業デーや時間休制度を導入した。来年度からはテレワークの試行も始める。各部門の残業実績を週次で捕捉して36協定に違反しそうな社員の上司にアラートも出してる。残業は、確か前年同期比で20%減ったんじゃないかな。部長が芝田さん(人事担当役員)に報告して『鬼の芝田が喜んでた』って言ってたよ。人事としては、成果も出したし、やり遂げた感があるぞ。もう終わった認識だ」
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