残業が習慣になる4つのメカニズムはこれだ!:ダメな組織の闇(2/5 ページ)
「長時間労働をやめよう」というスローガンは、日本の雇用社会においてずっと指摘されてきた、古くて新しい課題です。なぜ一向に変わっていかないのでしょうか……?
残業は「感染」する
2点目は、残業は「感染」する、という特性です。
我々が聴取した数十の組織特性・風土特性の中で、最も残業時間を増やしていた組織要因は「周りの人が働いていると帰りにくい雰囲気」でした。しばしば残業要因として指摘される「過剰品質の追求」や「意思決定に根回しが必要」といった組織要因よりも、この「帰りにくい同調圧力」が最も残業に影響していました。
また、この「帰りにくさ」は、若年層ほど感じやすく、20代は50代の1.7〜1.9倍、帰りにくさを感じており、さらに上司の残業時間が長くなればなるほど部下の帰りにくさは増すことも明らかになっています。先述した通り、働き方改革で中間管理職の業務量が増えてしまうと、周囲のメンバーに帰りにくい雰囲気を「感染」させてしまう、という相乗効果の恐れがあります。
残業は「麻痺」させる
3点目として、これまでの調査で我々にとっても最も仮説外の発見だったのは、残業時間が60時間以上、つまり相当な過剰労働をしている層で、主観的な幸福度・会社満足度などの「上昇」が見られたことです。
ここでいう幸福度は、社会心理学の幸福感の研究において多く用いられているエド・ディーナーの尺度を使用して指数化したものです(Diener etc.1985)。残業時間が増えるほど幸福感は(ある意味で順当に)下がっていっていますが、月60時間を越えるほどの過剰な残業となると、幸福感を感じている層が微増しています。
また、幸福感だけではなく、会社満足度、ワークエンゲージメントにも同様の数値の動きが見られました。平たく言い換えれば、過剰労働層には「たくさん残業しているけれど、満足度も、やる気もあって、幸福感を感じている」層が少なくない割合で存在するということです。
しかし、こうした長時間残業が健康リスクを顕著に高めることは、脳科学を中心とした多くの先行研究でも指摘され、コンセンサスが形成されています(岩崎,2008)。我々の調査においても、残業なしの層と比べると、食欲減退・重篤な病気・ストレスを抱えるリスクが1.6倍から2.3倍になることも同時に明らかになっています。
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