残業が習慣になる4つのメカニズムはこれだ!:ダメな組織の闇(3/5 ページ)
「長時間労働をやめよう」というスローガンは、日本の雇用社会においてずっと指摘されてきた、古くて新しい課題です。なぜ一向に変わっていかないのでしょうか……?
ここで言う「麻痺」とは、月に60時間を越えるような超・長時間労働をしているグループの中で、ストレスや健康上のリスクを抱えているにもかかわらず、それでも主観的な幸福感・満足感が高まっているという現象です。客観的に見ると、就業状況と価値認識が不整合になっているように見え、一貫した解釈が難しくなってしまいます。
この幸福感上昇の背景には何があるでしょうか。我々の分析から抜粋すると、「一致団結した雰囲気があり、終身雇用の傾向が強い組織」の中において、「出世の見込みがある」個人がこの主観的な幸福度を高めていました。つまり、「この組織の中で出世できる」という期待を抱きながら過剰な残業をしている従業員は、心理的には満足度高く働きながら、病気・精神疾患・休職等につながるリスクを蓄積していっているということになります。企業側が「本人にやる気があるならいいじゃないか」といった態度でこうした状況を放置するのは本人にも社会責任の面でも避けるべきです。
また、こうした長時間労働のリスクを議論するとき、「若いころは多少無理しないと成長しない」という残業成長論も異口同音にさまざまなところで聞かれる意見です。しかし、この意見についても疑問符がつきます。
我々の別の調査では、残業60時間以上の従業員は、仕事量はこなしているものの、「上司や同僚からのフィードバック機会」、「内省化機会」「職場外学習の機会」といった成長機会が大きく損なわれることが明らかになっています。残業の「量」を追いかける成長・育成観では、質のよい成長につながるとは言い難く、健康を害すリスクを負ってまで過剰な労働量を追いかけるのは個人としても避けるべきでしょう。
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