「しつけで体罰」禁止? 褒める子育て? “美徳”に潜む現実:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)
東京都が「しつけでの体罰」を禁止する条例案を提出した。さまざまな反応があるが、法制化しただけでは「体罰を容認する空気」はなくならない。啓発活動とともに、子育てをする親が追い詰められない社会にすることが必要だ。
「おせっかい」の心を持とう
さて、今回は成立すれば日本初となる「しつけでの体罰禁止」の法制化に乗り出した東京都の話題からあれこれ書きつづりましたが、子育ては親子関係だけで完結するものではないことも忘れてはいけません。
電車や飛行機などで子どもが泣くと怒り出す「おじさん」や「おばさん」がいますが、子どもは泣くのが仕事です。ベビーカーを押して電車に乗るお母さんを「マナーがなっていない」と断ずる人がいますが、電車の乗り降りのときや車内で過ごしているときに、ちょっとだけ手を貸し、目配りするだけでも救われるお母さんがいるのではないでしょうか。
東京都では、「OSEKKAIくん」という児童虐待防止の普及啓発のキャラクターを作り、「気になる子どもに声をかける、不安を感じている保護者に、優しく声をかけたり、相談場所を教える」ことをしてほしいと呼びかけています。
なんだか東京都の広報みたいな締めになってしまいましたね。いずれにせよ、怒る前に大きく深呼吸して心を落ち着かせることができる世の中になれば、「明るい子育て」が当たり前になっていくと期待しています。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)
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