「ゾウはいません」と掲げる動物園が、閉園危機から復活できた理由:“動物の幸せ”が集客に(2/4 ページ)
地域産業の衰退とともに閉園危機にあえいでいた動物園の“復活”が注目されている。福岡県の大牟田市動物園だ。「ゾウはいません」と掲げ、大規模改修もしていない同園に人が集まる理由は、職員の「知恵」と、動物への「愛情」だった。
炭鉱閉鎖で衰退……危機を救ったのは「知恵」
動物園のある福岡県大牟田市はかつて、三池炭鉱を抱え、大勢の労働者が全国から集まった。最盛期の1959年には人口20万人を超えたが、エネルギー革命に伴う炭坑の規模縮小とともに雇用は失われ、2019年2月時点では11万5000人に落ち込んでいる。
動物園の入園者数も炭坑の栄枯盛衰と軌を一にしている。大規模リニューアルを実施した翌年の1992年度には40万人超に達したが、三池炭坑が閉山に追い込まれた97年以降、市内では企業の倒産や商業施設の撤退が相次ぐなど衰退が加速した。
地元の景気悪化の波をかぶる格好で、2004年度の入園者は13万人にまで減少した。一時は閉園も検討されたが、06年度に指定管理者制度を導入。運営方針を転換した結果、徐々に増加傾向に転じ、15、16、17年度の入園者はいずれも年間20万人を超えた。少子化やレジャーの多様化によって、各地の動物園が入園者の減少に苦戦する中、異例のV字回復を遂げた。
高い集客力を誇る地方の動物園としては、北海道旭川市の旭山動物園がある。獣舎をリニューアルし、より野生に近い姿の動物の姿を見せる「行動展示」で知られている。一方、予算の乏しい大牟田市動物園は改修することさえなく、獣舎内の遊具や園内の説明板を手作りして充実させたり、飼育動物の見せ方を工夫したりするなど、職員の知恵で入場者を引き付けている。
多くの入園者を引き付けるようになった理由の一つとしては、同園の職員が「ハズバンダリートレーニング」に取り組み、その様子を入園者に公開したことが挙げられる。
ハズバンダリートレーニングは、動物を押さえたり、麻酔をかけたりすることなく、注射や投薬ができるよう、飼育員の合図で動物が治療しやすい体勢を自発的にとるように訓練することを指す。採血や体重測定を念頭に置いたツキノワグマやモルモットの訓練の様子を入園者に見せるようにしたところ、「普段見られない動物の表情や行動が見られる」と人気を呼んだ。
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